
2025.09.17
失われた20年に起きた「マイナススパイラル」 ~繰り返してはならない“外食デフレ構造”とは?~
竹田クニのインサイト8月28日ゼンショーホールディングス「すき家」が牛丼等一部商品の値下げを発表し話題になっている。
食料品、外食は値上げが続く昨今の経済情勢の中、市場からは驚きの声と共に賛否両論の意見があるようで、業界関係者からは懸念の声も少なくないようだ。
本コラムでは、1990年代後半~2010年代の“失われた20年(30年)”の間に外食産業で起きた現象を振り返り、市場・業界の未来を考えてみたい。
8月28日「すき家」が牛丼をはじめとする一部商品の値下げを発表
市場では値上げが続く中、突然の発表は業界内外を大いに驚かせた。
ゼンショーホールディングスプレスリリース: Press_sukiya_20250828_kk.pdf
日経新聞:すき家が11年ぶり値下げ 牛丼並盛30円下げ450円、客離れ防止 - 日本経済新聞
リリースには、“多くのお客様により手ごろな価格でお楽しみいただきたい”と客数UPを企図したものと考えられるコメントがあるが、市場ではデフレ再来、令和の牛丼戦争…などデフレの引き金となることを懸念する声があるようで、株式市場においてはゼンショーの株価は下落、また“牛丼戦争”を警戒し競合店の株価も下落傾向にあるようだ。
日経平均株価110円安 令和の「牛丼戦争」に市場警戒 - 日本経済新聞
外食におけるマイナススパイラルとは?
失われた20年に外食業界に起きた「マイナススパイラル」とはどのような現象だったのだろうか?
一般的にいう「デフレスパイラル」とは、物価下落⇒企業の業績悪化⇒賃金・雇用減少、個人消費の低迷⇒物価下落を誘発…という悪循環をいうが、ここでは外食業界に起きたマイナスのスパイラル構造を検証してみる。
外食業界に起きたマイナススパイラルは…
景気後退による成長鈍化、売り上げ低迷、客数減少などを背景に、「繁盛店」の業態や流行の商品を模倣…いわゆる“パクる”戦略が同質化を招き、それは市場を取り合う価格競争につながった。収益性担保のための合理化がQSC低下を招き、顧客価値・満足度の低下が、ますます価格での競争を助長してしまう…というスパイラルが発動する。

特にチェーンにおいては、店舗独自のメニューや接客の価値、カスタマイズといった要素を消費者に訴求しづらく、「同質化」と「価格競争」に陥りやすいという構造だ。
なぜ20世紀後半~21世紀初頭の外食産業でデフレスパイラルが起きたのか?
日本の外食産業は1970年代初頭にチェーンストア理論が日本に上陸。経済成長、所得増加と共に広がる市場に対して、新しい・魅力的なレストランや欧米の食文化は消費者に歓迎され、チェーンという仕組みで画一的かつ効率的なビジネスモデルをもって地方に出店を拡大していく戦略が、当時の経済情勢に合致していたのだ。

外食市場規模のピークは1997年。そして日本の人口は2008年から減少に転じる…
現在、上図のように比較してみると、チェーンが躍進した20世紀と、現在・これからの社会情勢・経済環境は「ま逆」である。
「ま逆」の環境の中で20世紀に躍進したビジネスモデルは競争力が低下し、「外食デフレスパイラル」が起動してしまったのだ。
これからの外食が目指すべきビジネスとは?
時代は変化し、消費の主役世代交代が進み、外食におけるニーズ・ウォンツ、消費における価値観は多様化している。昭和の時代のような大衆の多くを巻き込む“一大ブーム”は起こりにくい成熟した世の中に現代はなっていると言える。
これからの飲食店は、多様なニーズ・ウォンツに対し、その店ならではの顧客体験価値を提供し、価値にふさわしい対価をいただく。ファンを増やし、収益性の高いサステナブルで魅力的な産業を目指す…そういうモデルに代わっていくべきだ。

そして、改めて重要になってくるのがマーケティングの基本だ。
<飲食店マーケティングの基本>
「街」…商圏において、「ターゲット」…どんな人々の、どんな「シーン」…外食機会に、どんな価値を提供するのか?
求められる「時代」と「世代」の理解とマーケティング
飲酒、食事、軽食そして中食…それぞれに異なる競争環境と市場の進化
外食産業は非常に幅広い。
社食・施設食堂などの「給食」を除く、一般営業を行う飲食店は3つに大別され、それぞれに市場の現状・経営環境は異なる。
飲酒主体業態…居酒屋(焼鳥、串揚げ等含む)、バー、バル、スナックなど飲酒目的客を主ターゲットとする業態
コロナ禍での生活習慣・働き方の変化から、現在の市場規模はコロナ前(2019年)比68.8%/2025年7月と、コロナ前7割前後で推移。回復が遅れている…というより市場が縮小した感が強い。食事主体業態…レストラン、焼肉・ステーキ、専門料理等、食事提供をメインとする飲食店
業態ジャンルごとに差があるが、食事主体業態の市場規模は2019年比93.7%/2025年7月とほぼコロナ前市場規模へ回復し、19年比100%前後を推移してきている。軽食主体業態…ファストフード、喫茶カフェ、牛丼・カレー専業、立食ラーメン・そばうどん等
アフターコロナにおいて最も早く市場回復し、成長傾向。現在の市場規模は19年比128.1%/2025年7月と大きく市場が成長している。
※市場規模データは㈱リクルート ホットペッパーグルメ外食総研「外食市場調査」2025年7月度による
本稿冒頭の「牛丼」は、「軽食主体業態」に分類される。
軽食主体業態の市場規模は、アフターコロナにおける生活習慣・働き方の変化を背景に増加傾向を続けているが、「比較的安価な日常の食」を提供する軽食主体業態は、“コスパ”という言葉に象徴される「価格」での競争の要素になりやすい傾向があり、また中食(コンビニ、スーパー、弁当店、惣菜)とも一部競合する。
一方、食事主体業態、飲酒主体業態では、商圏や価格帯によって異なる店舗各々の市場の中で、優勝劣敗が加速している。
外食業界を取り巻く競争環境は一律ではなく、業態によって異なる。チェーン経営も現在の経営環境に適合した考え方に変化していくのだろう。
「商業施設新聞」が2025年6月24日に発表した、外食上場の2025年度出店計画一覧が興味深い。

「商業施設新聞」より一部抜粋
上記の数字は「牛丼以外の業態や一部海外の出店を含む」と注釈があるのであくまで参考であるが、いずれにしてもかなり積極的な出店を各社計画していると言える。
軽食主体業態の好調、各社の積極出店、中食との競争といった「牛丼」をとりまく経営環境の中で、「値下げ」がデフレスパイラルではない新たな競争戦略——デジタルによる生産性向上や従業員体験価値向上、フードテックによる品質の向上、サステナビリティ向上など——進化を伴った新たな競争戦略として位置づけられることを信じたい。

竹田クニ
株式会社ケイノーツ
代表取締役
早稲田大学商学部卒業後、1988年株式会社リクルート入社。HR事業、旅行情報事業の営業部長、じゃらんリサーチセンターで地域活性事業のプロデューサー、経営企画部中長期戦略室などを経て2011年に飲食情報事業のシンクタンクHPGリサーチセンター(現・外食総研)の初代センター長に就任。計29年在籍の後、2016年に独立し(株)ケイノーツ設立。現在は外食マーケティングのスペシャリストとしてマーケティング、消費者の価値観変化、生産性向上などをテーマに記事執筆、講演活動、フードビジネス関連企業のアドバイザリー・顧問、食のビジネスマッチングなど活動中。










































