
2026.02.13
外食業界の悲願?席=在庫の可視化がもたらす売上最大化
竹田クニのインサイト外食業界ではなじみが薄い「在庫」概念
「在庫」…というと、飲食店の場合は商材や飲料、消耗品のイメージをする方が多いでしょうか。
この「在庫」という概念は、経営戦略においてサービス業や運輸業界では“販売可能な機会”ととらえる重要な考え方。
例えば宿泊産業や航空業界では、販売可能として提供された部屋・席が、どれだけ埋められたか?いくらで売れたのか?を指標化して管理するレヴェニューマネジメント(またはイールドマネジメント)と呼ばれる考え方が浸透しています。
これにより時間が経てば消滅し販売することが出来なくなる「在庫」を、いつの時期に、いくらで、どのくらい販売するのが業績を最大化できるのかをマネジメントしているわけです。
※この考え方がダイナミックプライシングにも繋がりますが本稿では省略します。

例えば、ホテルで言えば「予約が入らない」=固定費だけを消費するマイナスになるわけですから、安く販売したとしても稼働を上げることで得られる統合的な結果を見る指標・・・というのがRevPARの考え方になります。
売上=客数✕客単価をさらに踏み込んで考えると
「売上=客数✕客単価」は普遍の基本原理であることは言うまでもないが、客数は客席の稼働数(率)、回転数というファクターに因数分解が出来る。
飲食店は一日に多くのお客様が入れ替わり立ち代わり来店され、席もカウンター、2名席、4名席・・・と多様で、4名席+2名で6名席になるなど、在庫の考え方が宿泊産業に比べて非常に複雑。
しかしながら宿泊業界で実践されているこうした指標のマネジメント有効であることは間違いなく、飲食店の複雑な稼働と回転の構造を可視化しマネジメントすることは大いに取り入れるべきであります。
飲食業界でも様々なチャレンジ
筆者が色々と調べたところ、外食業界では、「牛角」「焼肉ライク」の創業者で現(株)ダイニングイノベーション会長や、(株)カルネヴァーレの記事等露出から「稼働」「回転」に関する取り組みが見られ、早くからこの経営指標に注目していたことが分かります。
またいくつかの飲食店予約サイトでも稼働や回転の課題に対する取り組みが見られますが、この領域のコンサルティング、提案は、そもそも飲食店側がこうした指標を運用できるか?の問題もあり、多くの飲食店が取り組むには至っていないように見えます。
現場での運用の難しさ
現場での実際の運用には課題・・・難しさがあるように思います。
来連客への席案内は多くは現場のスタッフが担い、空いている席へ順に案内することが普通で、配席効率を考えて人数・滞在時間などを考慮して様々にコントロールすることは難易度が極めて高い。
また、予約人数や滞在時間、注文するメニューのデータを蓄積・傾向分析し、最も効率的な席レイアウト、メニュープランなどに展開するにしても、ローデータをとり、分析、課題特定化、オペレーション変更するには多くの労力が必要なのも現実です。
ホットペッパーグルメが新サービス「席押さえ」をリリース
ホットペッパーグルメ(株式会社リクルート)が新サービス「席押さえ」を1月22日に全国リリースした。
このサービスは、アプリ上で、“いますぐ入れる近くのお店”をマップから探し、その場で席を即時に確保できるというもの。


いわゆる“グルメサイトは、希望の条件に合う飲食店を探し「予約」出来るサービスとしてすっかり世の中に定着した。
筆者は、その日その場で「席を押さえる」というサービスは利用者だけでなく、飲食店にとって非常に大きな可能性がある取り組みだと考えている。
理想と現実
外食専門メディアでは、「予約でほぼ埋まる店」の取材記事や、予約管理システムを提供するベンダーが主催するセミナーでは「脱グルメサイト リピーター予約を伸ばして販促コストを低減」「新規客は常連が連れてくる」という主張もある。
確かにそれはそれで目指すべき“理想”ではある一方、それはあくまで理想論であってそういう状態に出来ている店は現実的には少数。
そうすると多くの飲食店、例えば「繁華街立地のカジュアル店」「チェーン大箱」「激戦区の空中階」などでは効果的な販促は依然有効かつ重要であるのだ。
“稼働していない席“を埋めるのに有効
現在市場に浸透している「ネット予約」は翌日以降の“先の枠(在庫)”に対して予約を行うのが殆ど。
当日予約は“TELL(電話で)”となっているケースも多い。
ホットペッパーグルメの「席押さえ」は、「今この時間に空いている席」に集客を期待出来、これまでグルメサイトだけでは実現できなかった当日に稼働を高める施策が打てることになる。
言い方を変えれば、これまで“ウォークイン次第“だった予約で埋まらない席を稼働させる期待が出来るという事だ。
ある繁盛店の理論・・・「グラスの氷と氷の間を埋める」
とある坪月商100万を超える超繁盛店では「グラスの氷と氷の間をウォークインのお客様で埋める」という独自の理論を展開している。その店は焼肉と“かすうどん”を提供しており、焼肉利用で予約するお客様で稼働しきれていな席を、かすうどんの食事利用&短時間のお客様で埋めることで売り上げトップラインを高次に維持が出来るのだそうだ。
実はこの理論、「七つの習慣」で知られスティーブン・コヴィー博士による・・・「大きな石(Big Rocks)」の寓話(壺の中にまず大きな石=重要な予定を入れ、隙間に砂利や水を流し込む)を、飲食店の席管理に応用したものと考えられます。

改めて注目すべき消費者インサイト
(株)リクルートの広報資料によれば・・・
(飲食店に来店するお客様の)約63%は当日お店に直接来ています。しかもそのうちの3割以上は、来店前の60分の間に、お店を探して決めているということが分かりました。
とある。上述のように予約比率は店の業態や立地、店の人気度によって異なることからあくまでマクロ的な数字と考えるべきだが、改めて消費者のインサイトを考えることが重要と思う。
<店選びが当日、その場になってしまうケース>
イベント終了後、「飯行こう」というハナシになっているが、「まぁその周辺で入れる店で…」と曖昧なまま
「仕事終わりに飲みに行こう!」となったが開始時間、人数が不確定
2軒目行こう!となったが予約はしていないし、どんな店に行くかも決まっていない(これから決める)
こんなシーンは多くの人にとって日常茶飯事であるし
周囲の店を何件か覗いたが、どこも満席・・・
なんていう“難民化”の経験も多くの人がしているはず。
飲食店の「稼働のスキマを埋める」と消費者の「不便不都合」を結ぶ
こうして考えると、ホットペッパーグルメが提供する「席押さえ」は、飲食店の「稼働のスキマを埋める」取り組みと、消費者の“今日今から行く店が決まらない“という「不便不都合」をブリッジする取り組みと考えられます。
従来もネット上で当日の店探しが出来るサービスは無かったわけではありませんが、大規模グルメサイトが全国規模で実施することで、全国の中小個店が取り組める期待は大きい。
進化が期待される“構造的アプローチ”
売上=客数✕客単価という大原則にしたがって、販促→客数を伸ばす、客単価→FD比、キラーコンテンツ、人気店のパクリ・・・こうしたアプローチはもちろんそれはそれで正しいのだが、テクノロジーが進化して、稼働率、回転率への“科学的アプローチ”を戦略的かつ簡便に行える進化が期待されます。
今後は空き席の映像認識やAI活用などさらなる進化も期待できるでしょう。
外食産業は“客商売”としての客数✕客単価、顧客満足度と言った指標と同時に、「在庫」ビジネスとしての稼働、回転という「構造」をマネジメントできる進化が始まっていると言えるのではないでしょうか?

竹田クニ
株式会社ケイノーツ
代表取締役
早稲田大学商学部卒業後、1988年株式会社リクルート入社。HR事業、旅行情報事業の営業部長、じゃらんリサーチセンターで地域活性事業のプロデューサー、経営企画部中長期戦略室などを経て2011年に飲食情報事業のシンクタンクHPGリサーチセンター(現・外食総研)の初代センター長に就任。計29年在籍の後、2016年に独立し(株)ケイノーツ設立。現在は外食マーケティングのスペシャリストとしてマーケティング、消費者の価値観変化、生産性向上などをテーマに記事執筆、講演活動、フードビジネス関連企業のアドバイザリー・顧問、食のビジネスマッチングなど活動中。










































