
2026.05.25
“価格弾力性”の考察 値上げの「型」ではない「要諦」とは?
竹田クニのインサイト飲食店のPL各項目でコストが「10年前と比較して大幅に上昇」し、「値上げ」が必至であるお話をしましたが、様々反響をいただき、「結局、いくら位値上げをしなければならないのか?」という質問をいただきました。
勿論、業態や店ごとの事情が異なる中、“これくらい”という目安のような数字を出すことは難しい。
重要なのは、価値=「その店に行く理由」を考えること。今回は値上げの「要諦」について考えてみたい。
「価格弾力性」とは?
「価格弾力性」とは、価格変動に対して需要や売れ行きが変化する度合いのこと。
値上げしても需要・売れ行きへの影響が小さい=価格弾力性が小さい
価格変動が需要・売れ行きに影響しやすい、程度が大きい=価格弾力性が大きい
と考えます。
極端に例えるなら、ルイ・ヴィトンやロレックスなどは値上がりしても需要・売れ行きへの影響は小さい。
逆に、スーパーで売られている食料品は価格によって売れ行きが大きく変わる。
外食業界で言えば、2008年のリーマンショック後に起きた「居酒屋デフレ戦争」は価格によって集客に大きく影響がでた「価格弾力性」の大きさを物語るものでありました。
「値上げ」必至の外食産業。“客離れ”をいかにして防ぐのか?
前回コラムで紹介させていただいた10年前とのコスト比較の再掲。

こうしたコスト上昇と背景を頭におきつつ、近年の大手チェーンの事例から値上げのパターン、消費者への説明などを見てみます。
1. 誠実告知&価値維持向上型:ロイヤルホスト
2025年2月13日に価格改定。原材料費・物流費・供給不安定化を理由に挙げ「変わらぬ品質で提供し続けるため」と説明。単なるコスト転嫁ではなく、品質維持のための価格改定として打ち出し。
値上げ後2026年1~3月の既存店業績 来客数100.1%、98.9%、98.7% 客単価106%前後 売上104~106%で推移。
2. 誠実告知&体験価値上積み型:鳥貴族
2025年5月1日全品370円から390円へ改定。店舗運営コスト上昇やビール類値上げ、従業員の待遇改善を背景に挙げつつ、同時に参加型キャンペーンなど顧客体験向上施策を打つ。
値上げ後も客数前年比プラスを継続しており、影響は出ていないようだ。消費者の共感を呼び真摯で誠実な説明と“来店する楽しさ”の補強を同時に行うことが奏功。

3. 値上げと値ごろ感両立型:マクドナルド
2025年3月に価格改定を実施。同じタイミングで「セット500」を復活させ、「トクニナルド」などのお得感訴求も展開。つまり、値上げの一方で、“リーズナブル感のある価格帯の商品”を残した形。
2025年を通じて、また2026年これは、価格改定時において値ごろ商品の“見せ方”が重要であることをよく示しています。2025年実績では客数・売上を伸ばしている。

4. 選択的値上げ+逃げ道設計型:モスバーガー
2025年3月に価格改定。94商品のうち44商品のみを10~30円引き上げ、50商品は据え置きました。一律改定よりも、顧客が相対的に安い選択肢を見つけられる価格設計→全てを一律に上げず、顧客に“まだ選べる”感覚を残した戦略。2025年、2026年も堅調に前年比プラスで推移。
5. アンカー価格防衛型:丸亀製麺
2025年1月15日に価格改定。同時にうどん「小」320円を新設し、顧客に選択肢を残す。典型的な「アンカー価格」を防衛するという戦略で、安い価格の選択肢を残しておくことで「高くなった店」ではなく「予算に応じて選べる店」への認識を促す。2026年現在も客数は堅調に推移。
こうした各社の取り組みをみてみると、「真摯で誠実な説明」、「品質の維持向上」というのは会社・ブランドに関わりなく絶対的に必要でありますが、各社、自らのSTP(セグメント、ターゲット、ポジション)に応じて、消費者感情に寄り添う努力がされているわけです。

これらの事例等から学ぶ「型化」ではない、「要諦」
これら事例や他にもある成功例から学ばねばならないのは、「型化」ではなく「要諦」。“こうすれば上手くいきやすい“・・・というやり方論の前に、大切にしなければならない考え方が重要です。
成功した取り組みにみる「要諦」 “高くなったが行く理由がより強くなった店”
値上げ=「価格変更」は「価値の再定義」
消費者が納得する価値の再設計と説明をした企業が成功する
値上げ理由の透明化
例えば、ロイヤル、鳥貴族の説明には、原材料、物流費の高騰などが具体的に語られています
再投資先の明確化
品質改善、DX、従業員の待遇改善など具体的な再投資先を明言する
ブランドの核を大切にする
例えば、価格維持のために安価な食材の調達に成功したとしても、それが消費者に約束した企業理念、ブランドストーリーに反するものであってはならない。一時的に値上げを回避できてもブランドは中長期的に衰退に向かう。
客離れの本質は値上げではなく「その店に行く理由の弱さ」
今一度、自店への来店理由、ライバルと比較したとき「価値」「選ばれる理由」を検証し、それを磨くことによって、「ただ高くなった店」となるのではなく「高くなったが魅力がより強くなった」を目指すのです。
企業都合→「社会状況の共有」への転換
言い方を変えれば、こうした考え方によるアプローチは、値上げが「企業都合」なのではなく、企業・飲食店が社会の公器として存在するために必要な改革として消費者に認識されるか?を問うています。
来店する消費者は、同時に同じ社会で暮らす生活者であり、多くの人々は何らかの企業・組織に所属しそこからの報酬によって生活をしています。同じ社会的状況を共有し、理解・共感、ひいては応援にたどり着くには、単なる価格戦略としての「やり方論」ではない取り組みが重要となります。
戦略と戦術…ベンダーが考えるべき提案
経営者、店長の逡巡に対する提案
値上げは大きな戦略決断。
値上げによる客数減、常連客・リピーターのコンプレイントは経営者・店長のもっとも逡巡するポイントであります。
値上げ=「戦略」に対し、それをどうやってやるか?=「戦術」を担うのがベンダーの役割。
例えば、低~中価格帯の居酒屋であれば、そこはレッドオーションの競争環境になりますから、他店と比較して「美味い」or「ボリューム」or「安い・お得」をという訴求ポイントをアンカー“と考え、それ消費者、来店客が漏れなく認識できる「PR戦略」や「スマホ/タブレットオーダー上にどう表示するか?」が戦術となります。
人手不足、時間効率という課題解決だけではなく、「戦略」を実現・成功に導くための「戦術」を提案するパートナーとして、レストランテック界隈の役割はますます重要になってきていると言えます。

竹田クニ
株式会社ケイノーツ
代表取締役
早稲田大学商学部卒業後、1988年株式会社リクルート入社。HR事業、旅行情報事業の営業部長、じゃらんリサーチセンターで地域活性事業のプロデューサー、経営企画部中長期戦略室などを経て2011年に飲食情報事業のシンクタンクHPGリサーチセンター(現・外食総研)の初代センター長に就任。計29年在籍の後、2016年に独立し(株)ケイノーツ設立。現在は外食マーケティングのスペシャリストとしてマーケティング、消費者の価値観変化、生産性向上などをテーマに記事執筆、講演活動、フードビジネス関連企業のアドバイザリー・顧問、食のビジネスマッチングなど活動中。









