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ほぼ毎日更新!!飲食店のDXを後押しするWEBマガジン

2024.02.29

「飲食店が簡単に潰れない世界をつくる」ビジョンを掲げDXでコツコツと解決していく

飲食DXリーダーズ

 「サブスクリションサービス」(以下、サブスク)とは、顧客が月1回、年1回などで料金を支払って受けられるサービスのこと。音楽配信や動画配信サービスなどでよく知られている。飲食業でもこれを取り入れるところが表れ、その成功事例をつくった会社の一つに株式会社favy(本社/東京都新宿区、代表/高梨巧)が挙げられる。

2016年10月、同社が東京・西新宿にオープンした「coffee mafia」は、当初月額2000円でコーヒーを何杯でも飲むことが出来るというサービスを行った。同社ではこのブランドの店舗展開を進め、出勤前や休憩タイムに気軽にコーヒーを求めて店に立ち寄るという文化をつくり上げた。そして、さまざまな飲食業がこの仕組みを取り入れるようになった。

このfavyの動向がコロナが明けた昨年から賑やかになっている。

『PRtimes』の記事のタイトルを紹介するとこのようになっている。

(2023年8月24日)8月27日、新橋駅から徒歩4分! 汐留駅目の前カレッタ汐留に次世代型の「汐留横丁」がオープン~自席でセルフオーダーによって横断型で商品の注文が可能~

(2023年9月28日)favy、2024年9月大阪でオープンする「JAM BASE」にてシェア型フードホールの出店が決定~さらにフードホール専用モバイルオーダーサービスの一般販売を開始~

(2023年11月21日)森ビル株式会社が運円する虎ノ門ヒルズステーションタワーのT-MARKETにfavyのフードホール専用モバイルシステムを導入~事前決済型、事後決済型を使い分け~

(2023年12月12日)favyのフードホール専用モバイルオーダーシステムが東京ミッドタウン八重洲「ヤエスパブリック」のALL STANDSエリアに導入

(2024年1月16日)店舗のリテールメディア化に取り組むfavyが累計28億円の資金調達を実施。モバイルオーダーとサブスクシステムでのリターゲティング広告を実施

 (2024年2月1日)カレッタ汐留内「汐留横丁」、新たに6店舗が加わりグランドオープン! 全15店舗の料理を楽しめるグルメスポット

上記の「資金調達」のタイトルに「店舗のリテールメディア化に取り組むfavy」と記されているが、冒頭の「サブスク」から、タイトルにある「シェア型フードホール」「モバイルオーダーサービス」という形は、すべて「店舗のリテールメディア化」のために開発されたものと位置付けていいだろう。

 果たして、favyという会社はどのような世界観をもって事業を進めているのだろうか。

リテールメディア広告市場が急拡大している

※株式会社favy 代表取締役社長 高梨 巧 氏

favyが設立したのは2015年7月1日。代表の高梨氏(43歳)は19歳で起業し、グーグルの広告や、SEO、MEOといったデジタルマーケティングのプロフェッショナルとして活動してきた。その高梨氏が、上記のような飲食業のデジタル化に関わるようになったきっかけはこのようなことだった。

「リーマンや震災とか、マーケットが激変していく中で、自分の好きな飲食店がなくなっていった。この様子を見ていて、常々もったいないなと思っていた。飲食店にとって、別の稼ぎ方はないものか、と。そこで『飲食店が簡単に潰れない世界をつくる』ことを考えて、この会社が始まった」(高梨氏談)

それが目指すところは「店舗のリテールメディア化」ということ。これについて電通のデータ・テクノロジーセンターではこのように解説をしている。 

「小売店が運営するECサイト上の各種オンライン広告や小売店の店舗に設置されたサイネージ広告などに見られる『小売店が媒体社として提供している広告媒体』のこと」

「その特徴として、小売店のお客様である生活者の購買データや、小売店アプリの利用客ログなどの行動データなど、小売店が独自に収集・所有するデータ、いわゆる『1st Partyデータ』を活用して、精緻なターゲティングを行い、広告やクーポンを配信することができることが挙げられる」

「店舗にあるサイネージ広告や看板は、来店客が購入する直前に目にするものであり、リセンシー効果(購買の直前に接触した広告が与える影響)が高い顧客接点として注目されている」

アメリカではWalmartをはじめとした小売業がこの市場を牽引してきたがAmazonが参入してから成長に拍車がかかった。Walmartの決算によると、2021年のWalmartのリテールメディアの売上は1.55B$(日本円で2248億円、1$=145円換算)となっている。日本ではCARTA HOLDINGSが発表した「リテールメディア広告市場規模推計予測」によると、以下のようになっている(各売上高内訳の前者はデジタルサイネージ、後者はオンラインメディア)。

  • 2021年:90億円(50億円/40億円)

  • 2022年:135億円(70億円/65億円)

  • 2023年:245億円(135億円/110億円)

  • 2024年:410億円(210億円/200億円)

  • 2025年:590億円(290億円/300億円)

  • 2026年:805億円(355億円/450億円)

話題をfavyに戻すと、同社ではこのような「店舗のリテールメディア化」を飲食店に取り入れるために、サブスクやモバイルオーダーを開発してきた。モバイルオーダーは大手デベロッパーを中心に現在3500店舗で導入されている。そこで、累計28億円の資金調達を行い、これらを本格的にスタートさせることになった。

「購入する」「店を探す」「決済する」が一気通貫

favyがこれまでサブスクやモバイルオーダーの開発を手掛けてきたのは、顧客データを分析して、それを活用するための仕組みをつくるためであった。

飲食店にはさまざまなタッチポイントが存在する。最も身近なものでは「ポイント」が挙げられる。それは、何らかの来店動機につながるものの、上記の「1st Partyデータ」には至らない。飲食店が「1st Partyデータ」を所有しているか否かで、ネット活用に大きな差が生じることになる。

同社がサブスクに着眼したのは、サブスクこそが「購入する人(食べる人)」「店を探す人」「決済する人」が「同じ人」であるということ。これが例えば、会社のお偉いさんが「会食をする」という場面となると、店を探す人は当事者の秘書であったり若手社員だったりする。お偉いさんは、その店で食事をして決済をする。つまり、決済をするが、店を探した人ではない。ここで、「店を捜した人」に高級品の広告を打ったところで、それが送られた人には響くことはない。

Amazonがリテールメディア市場に参入した背景には、「購入する人」が「店を捜す人」であり「決済する人」と、一気通貫していることが挙げられる。この利用者の数が膨大であるからこそ、参入してすぐに大きな売上を獲得することが出来たのである。

こうしてfavyでは冒頭に述べた「coffee mafia」や会員制レストランの「29ON」の展開を独自に進めていった。同社でサブスクによる顧客データ活用を自社で検証するために、飲食業を営むことになった。これが大きなノウハウとなっていく。2024年2月末の段階で17店舗を擁している。実際にこれらの店舗では入手した顧客データを分析することで、飲食店のデジタルマーケティングの環境が見えてきた。

しかし、ここである課題に気付く。それは、サブスクの会員登録をする人は、その飲食店を強烈に愛している顧客、つまり「ロイヤルカスタマー」であること。

では、ロイヤルカスタマーの周辺の顧客データをどのように入手するか。そこでモバイルオーダーの仕組みを独自に開発することになった。

1人ではなく、みんなで切磋琢磨する

※250坪・250席を有する「汐留横丁」は15店舗のメニューを横断的に注文することができる

このfavyのモバイルオーダーを活発に利用してもらう仕組みとして誕生したのが「シェア型レストラン」である。これらは、冒頭で述べた「汐留横丁」をはじめ続々と誕生している。

その1号店は2019年1月にオープンした「re:Dine」GINZAである。これは、銀座のビル9階に120坪の1フロアを確保し、ここに6つのキッチンと3つのドリンク区画、120の客席を設けたもの。

「re:Dine」には、これまでの飲食店にはないさまざまな画期的な試みが行われている。

まず、出店者にとって負担が少ない。「初期費用:20万円」「家賃(月額):完全売上歩合」「共通経費:各店舗で案分」「契約期間:柔軟設計」となっていて、イニシャルが低く、退店するときに原状復帰をする必要がない。つまり、コワーキング型レストランである。

入居者は成績連動で入れ替わる。そのための入居者候補は料理選考会に諮られて、一定の評価基準を満たした人たちが入居できる仕組みとなっている。

「シェア」をするのは「客席」「スタッフ」「集客」である。これまでは「すべて1社で負担して、店舗開発と運営が一体」となっていたものが「複数社でシェアして負担、店舗開発と運営を分離、さらに運営の支援が付いている」という形になっている。

おもな役割分担として、物件オーナーは「物件開発(ハード初期投資)」「リーシング(優先入居案内可能)を行う。同社はここで「物件開発実務:設計、デザイン、施工」「店舗DX実務」「リーシング」「店舗運営支援」を行う。入居テナントは「店舗運営」を行う。

ここには同社が開発したDXの仕組みがフルパッケージで導入されている。

上記の画像は「店内モバイルオーダー」の仕組みを示したもの。「予約」「入店・注文」「会計」「会計後」が仕組み化されている。

上記の画像は店外モバイルオーダーの仕組みを示した。

上記の画像はお客が来店する前に、複数店を横断して事前注文が可能であることを表示。

上記の画像はサブスクとモバイルオーダーの受注状況をアプリで確認して、顧客属性や来店履歴を確認できることを表示している。

こうして、来店するお客の獲得経路や属性が分かり、広告や集客の効果測定とお客のデモグラフィック情報が把握できて、広告費用対効果も分析が可能となる。さらに、リアルタイムで各店が売上を吸い上げてBIによって分析が可能。他店の売上状況を見ながら、自店の改善に取り組むことができる。1人で商売をするのではなく、ここに入居している人たちで切磋琢磨していく、という環境である。

「横丁」を活性化する「IT本部」の役割

※「汐留横丁」のそれぞれの店舗ではメニューの特色をアピールしている

さて、コロナ禍となって、かつて地方都市でトレンドとなった「横丁」が衰退するという現象が多数みられた。favyにこれらをリニューアルする照会があり、宮崎市、大分市、鹿児島市、仙台市と4カ所のリニューアルを手掛けた。ここではwi-fi環境を整え、ソフトウエアの開発を行いながら新規のリーシングを行った。同社が開発してきた、サブスク、モバイルオーダーを新規に入れることが、横丁を活性化するためのツールとなった。

 高梨氏は、ここでの経験を「IT本部のような役割」と呼んでいる。同社が開発してきたツールは「ビジネススキームの存在」とも語る。

現在同社が所有しているシェア型レストランは「12物件60区画」である。同社を飲食業として捉えると60業態を擁している会社ということになる。そしていま、新規に二十数件の照会があり。今年度中に120から150ほどの区画になる模様だ。

「店舗のリテールメディア化」の構想は、着実に進展している。現実に広告主がトライアルで入っていて、同社で入手している顧客データ分析から広告配信を実験的に行っている。ここで利益が生まれると、それを飲食店にフィードバックすることになる。飲食店はお客にモバイルオーダーを使ってもらって、お金を儲けるという仕組みになる。

同社が創業時に掲げた「飲食店が簡単に潰れない世界をつくる」という壮大なビジョンは、一つ一つのパーツが組み合わさっていくように、いま着実に進展している。

千葉哲幸

フードサービスジャーナリスト/フードフォーラム代表

柴田書店『月刊食堂』編集長の後、ライバル誌の商業界『飲食店経営』編集長を務めるなど、フードサービス業界記者歴ほぼ40年。フードサービス業界の歴史を語り、最新の動向を探求する。2014年7月に独立。「Yahoo!ニュース エキスパート」をはじめ、さまざまな媒体で執筆、書籍プロデュースを行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年発行)

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