
2023.12.14
【竹田クニ】外食産業の変革を牽引する飲食DX:ダイナミックプライシングとプライシング革命の未来
竹田クニのインサイトこのところTV等で、マクドナルドが店によって価格が違うという露出が結構ありました。
番組の多くは…
原価高騰、エネルギーコスト高騰で受難の外食産業が、一部値上げを伴うエリア別価格に踏み切った…
といったトーンですが、実は1990年代から、多くのFR, FFでは地域別価格が存在しており、そこにはもちろん理由があります。
マスコミは「値上げは困る!」という消費者感情に訴えたいのかもしれませんが、私たちが食産業の進化発展を支援する者としては、このダイナミックプライシングを正しく、広く普及させることも使命だと考えています。
マクドナルドのエリア別価格

今回私が目にしたのは、某民放キー局の朝の情報番組。全体のトーンとしては…
原価、エネルギー、人件費高騰を受けて、外食産業が大変なのは理解…
でも消費者としては、たった数百メートル離れた店で価格が異なるのはどうして?
賃金が上がらない状況の中で、家計は厳しい…
といった内容でした。
実は昔から存在した「地域別価格」チェーンが一律価格という事実はもともとありません。
私がこの件をFacebookに投稿したところ、多くの外食関係者がコメントを寄せてくれました。
その中で…
マクドナルドは昔から4~5種類の価格テーブルを運用していますよ!
某大手ファミレスでも90年代から4~5パターンの価格で運用していましたよ!
という意見がありました。
問われる報道の在り方
チェーン店が全店同一価格というのは昔からなく、ましてや値上げをネガティブなものとして捉える報道には疑問を感じます。
25年間価格据え置きの店!
逆に、こういう店も、店主のこだわりやインタビューと共に時折報道されます。こういうお店は、確かにリスペクトすべきですが、個店が多いように思います。家賃絶対額が低い店舗や自社物件、家族経営で人件費負担も低い…こうした店と、複数店舗を運営する「企業」のプライシングを比較するのは無理があるでしょう。
安易な消費者感情との接続に疑問
「値上げについてどう思われますか?」と聞かれたら、歓迎する人はほとんどいないでしょうし、“良いかっこし”の回答も絵になりにくい…。要は、ちゃんと理由・背景についても言及してほしいのです。
今回の、外食に限らず、様々な値上げにはもちろん正当な理由があり、それは「適正な対価」をいただく行為です。
そしてそれが、番組の視聴者=消費者=労働者の賃金にも影響するのです。
食ビジネスにおいて、外食は最終的な顧客接点を担うという性格
食材の一次生産者から仲卸や商社、卸、物流事業者、飲食店へという“モノの流れ”を考えた場合、価格上昇はどこで起きているのでしょうか?
サプライチェーンの最終ランナーである外食事業者が「きちんと価格転嫁する」ということは、このバリューチェーン全体に影響を及ぼします。
大手チェーンがバイイングパワーを行使して、市場の価格上昇に比例しない条件を無理強いする場合、そのしわ寄せは中間業者から生産者へと連鎖します。
ですので、「外食値上げ」という現象を安易に伝える報道には疑問を感じます。
価格「変動」を構成する要素
飲食店側から見た価格変動には以下のような要素があります。
食材・飲料の仕入れ価格上昇(物流費上昇含む)
エネルギーコスト上昇
家賃上昇
人件費上昇
客数減による売り上げ減少
営業時間短縮による売り上げ減少
これらのコスト上昇は、損益分岐点を下げ、また仕入量の減少が一食当たりの原価上昇につながります。これは単に縮小均衡には収まらない性質があるようです。
特に客数減、売り上げトップラインの下落を抱えている場合、「値上げ」がさらなる顧客離脱を生むのではないかという経営者の葛藤・逡巡が当然あります。
2024年問題
さらにもう一つ、心配なのが「2024年問題」です。
2024年問題とは、2024年4月にトラックドライバーの労働時間上限が新たに設定されることにより、全国的な運送力・運送量の低下が起こると予想される問題です。
「知っていますか?物流の2024年問題 | 全日本トラック協会 | Japan Trucking Association

飲食店のほとんどが自動車による運送に依存しているため、影響は避けられないでしょう。コストへの反映もほぼ確実だと考えられます。
外食産業再興に必要な「プライシング革命」
さて、前置きが長くなりましたが、本題の「プライシング革命」について話しましょう。
様々なコストが上昇し、人手不足、サプライチェーンの不安定さなど、飲食店のプライシングには今、逆風とも言える環境があります。ここにパラダイムシフトの必要性を感じます。
「食サ分離」
日本の飲食店では、サービス料が加算される店は少なく、料理の価格にほぼ含まれていることが多いです。欧米の人々の中には、「フルサービスでこの価格?」と驚く人もいます。

前回の消費税増税・軽減税率議論の際には、「外食10%、中食8%」という提案がありました。その時の理由付けは、外食には喫食する空間・設備の使用があるからとされました。
その是非はともかく、料理・ドリンクだけでなく、空間や設備の使用などの負担が価格差の論拠になるのであれば、議論は前進するかもしれません。
「食サ分離」とは、食事(ドリンク含む)とサービスの概念分離の議論を今こそ積極的に行うべきだと考えています。

サービスに課金するのではなく、料理の対価+サービスの対価=商品の価格という考え方が必要です。
言い方を変えれば、「サービスの対価性」向上がこれからの外食産業に必要な要素です。
実は、他業界では既にこの考え方は導入されています。宿泊産業では、20年くらい前から、「泊食分離」の考え方が導入され、部屋と食事の料金が別々に設定され、プラン化されています。また、食事によって、あるいは部屋によって料金が異なるのは当たり前になっています。
空間・設備、デザインは有形、接客技術、ストーリーは無形ですが、有形無形のコストと「価値」が含まれ、それを対価に変換することが外食産業にとっては大きなチャレンジとなります。
最近では、デリバリーに手数料がかかるのは当たり前であり、スーパーでは魚の加工料が取られるなど、料理だけでないサービスの対価を顕在化させる取り組みが増えてきており、消費者理解を訴えかける環境は整ってきていると思われます。
食サ分離から「ダイナミックプライシング」へ
食サ分離によってサービスの対価性が顕在化し、消費者の受容が進めば、ダイナミックプライシングの理解と普及が加速すると思われます。
これは「価値の議論」であり、空間や接客技術などのコストや技術、手間という価値、また需要期、繁忙期には「席の獲得」「ブッキング」そのものに希少性的な価値が付加される考え方になります。
これもまた業界ではすでに当たり前になっています。消費者もこれを当たり前として受容しています。

わかりやすい価値からのチャレンジ
このような「価値からのアップチャージ」は、「わかりやすい価値」からスタートするのが良いでしょう。
例えば・・・
眺望の良い高層階の窓際席
寿司屋で大将が直接握ってサーブするカウンター
これらは、消費者にとってわかりやすく、ニーズも明確です。

繁閑による意欲的なチャレンジ
カジュアル店でも意欲的な取り組みが見られるようになっています。ダイヤモンドダイニング「焼き鳥IPPON」では、時間帯によって異なるドリンク料金が設定されていますし、渋谷区の「お食事処asatte」では、ランチタイムの繁閑に合わせて価格が変動しています。

需要期、繁忙時の価格アップチャージは、サービスコストの価格反映という意味で注目すべきです。
また、デジタル技術の活用も注目に値します。焼き鳥IPPONではセルフオーダーのため注文時間が明確です。また、同店ではタレ・塩の味が一本ごとに別々に注文可能です。これを人手で行うと、オーダーテイクに混乱が生じる可能性がありますが、デジタル化により時間が把握しやすく、顧客への説明も容易になります。こうした事例をぜひ広めていきたいですね!
ダイナミックプライシングとDX
DXの本来的な意味
ダイナミックプライシングは、デジタル化以前の飲食店ではメニューブックの変更、レジの変更、スタッフのオペレーションの変更など、人手では難しい部分がありました。デジタルツールの登場により、ダイナミックプライシングの実現が可能になったと考えられます。
これは、デジタル化による効率化や省力化だけではなく、「価値のあり方」「飲食店の稼ぎ方」の変化と進化を意味します。これは、まさにTransformationではありませんか。
デジタルを「手段」として、ビジネスを変革していくことが、DXの本来的な意味と目的です。
世の中の理解、共感を醸成する
冒頭で触れたTV報道のように、ダイナミックプライシングが消費者に受け入れられるまでにはまだ距離があります。
レストランテック協会、日本飲食業経営審議会、食団連、居酒屋甲子園など、業界の横の連携により、世の中への理解と共感を求めていく積極的な活動が必要だと感じています。

外食産業の未来を想像し、創造する。
業界、業態、分野、立場、競合、年齢など、様々な「壁」を越えて未来に向けて連携・協働していくことが、今私たちに求められていると感じています。

竹田クニ
株式会社ケイノーツ
代表取締役
早稲田大学商学部卒業後、1988年株式会社リクルート入社。HR事業、旅行情報事業の営業部長、じゃらんリサーチセンターで地域活性事業のプロデューサー、経営企画部中長期戦略室などを経て2011年に飲食情報事業のシンクタンクHPGリサーチセンター(現・外食総研)の初代センター長に就任。計29年在籍の後、2016年に独立し(株)ケイノーツ設立。現在は外食マーケティングのスペシャリストとしてマーケティング、消費者の価値観変化、生産性向上などをテーマに記事執筆、講演活動、フードビジネス関連企業のアドバイザリー・顧問、食のビジネスマッチングなど活動中。










































