
2025.07.18
「ホールカスタマー」と「ホールプロダクト」 レストランテック推進者に必要な思考と行動
竹田クニのインサイト業界問わず「営業」に重要とされる「ヒアリング」「顧客理解」。
もちろんそれらは重要なのだが、概念が曖昧であるため営業パーソン・営業組織によって差があり、できている/不十分の認識がばらつきやすい。
今や百花繚乱と言えるレストランテック。テクノロジー提供者に必要なのはどんな「ヒアリング」「顧客理解」なのだろうか?
ドリルと穴
~ドリルを買う顧客が欲しいのは「穴」である~ ~ドリルを売るな、穴を売れ~

ビジネスでよく知られる話だが、レストランテックにおいてはどう考えたらよいだろうか?
飲食店において、効率化・省力化が可能である「業務」にフォーカスし、そこにシステムやアプリの活用を提案する。
改善が期待される「業務」=“穴”であり、システムやアプリ=“ドリル”のように見えるが、実はそれだけではない。
本当の「穴」は、その先にある顧客体験価値向上、従業員体験価値向上による生産性向上、業績の向上である。
「穴」がその店・会社にとってどんな価値創造につながり、それがどうその店の理念・パーパス・MVV に繋がるかをよく理解していることが、グッドパートナーとしての大切な思考となる。
5W1H → 8W3H → +α

こちらもビジネスの基礎としてよく用いられる 5W1H→8W3H。
顧客にイノベーションを提案する営業活動においては、実はこれでも足りない。まずその店・企業の理念、パーパス、MVV、現場スタッフの仕事ぶりや表情……その店・企業の全体像と現場の現実をどれだけ理解しているかが重要である。
本当の「穴」=課題を知るには?
「問題」=現状と目標の間にあるギャップとその原因。
「課題」=問題を解決するための具体的なテーマとアクション。
とすれば、本当の「穴」=課題は、相手(顧客)が特定・自覚できていないケースも多い。ゆえに相手が「目標」としている理念・パーパス・MVV を理解し、「目標」と「現状」のギャップとその原因=飲食店の現状・現場の現実を理解することが必要なのだ。
ヒアリングがうまくいかない理由
「ヒアリングが大事!」これはどの業界の営業でも言われているが、営業パーソンによって実に差が出る。何故、差が出るのだろうか?よく言われる「ヒアリング力」とは何だろうか?
ヒアリング力の向上は「ヒアリングシート」の精度を上げたところで実現するものではなく、相手(飲食店)への興味と情報収集、店に行った実体験などから顧客を総合的に理解し、「課題仮説」とともに具体的な質問を投げかけられる力が向上することである。
営業が科学的に行われる時代が進み、探客、リード獲得、行動指標、商談数、受注率…etc.営業パーソンの行動・タスクは分解され、行動 KPI が明示され、マネジメントは可視化・最適化される。これ自体は進化だが、イノベーションを支援・提案する営業がまず第一に大切にすべきは、顧客を“総合的に”理解していることにあると私は考えます。
「ホールカスタマー」と「ホールプロダクト」
最新の論ではないが、普遍的に大切な概念と考えられる。

「ホールカスタマー戦略」は、前述の総合的顧客理解を指します。
では「ホールプロダクト戦略」はどうか?
レストランテックでは、現実的には困難なホールプロダクト戦略
集客・販促、オーダーテイク、決済、経営管理、受発注、シフト・労務管理、人事系……飲食店の店舗/バックヤードで活用されるデジタルツールをすべて 1 社で完結することは現実的に難しい。不可能に近い。
業態や本部機能、営業スタイルによって求められる機能は異なるし、現場で好まれる UI によっても機種選定が異なる。
したがって、今レストランテック業界に必要なのはシステムがオープンに繋がる世界。
ホールカスタマー理解による全体最適のために、さまざまなプレイヤー/プロダクトが自由にストレスなく繋がり、効果的に全体が機能することである。
そして集客・販促、オーダーテイク、人事……カテゴリによって求められる専門知識が異なるため、全体最適を見ながら各種プレイヤーが連携・協働することが重要だ。
下記はレストランテック協会が提供する「デジタルデザインマップ」。
この世界観・視野で各プレイヤーが業界進化への志を共有し高め合い、顧客(飲食店)本位の活動をしていくことが求められますね。

「つまらない自己紹介」と「上から目線の改革論」
外食業界ではさまざまな交流会や懇親会が行われ、飲食店と飲食店を支援するベンダー、メーカーなどが意見交換し共に学ぶ機会が多くあります。
こういう場は大いに活用すべきと考えるが、時折、不自然だったり不適切な“感じ”がする場面があります。
「つまらない自己紹介」
♪○○のシステムで飲食店さんを支援してまして、△△様や□□様などで使っていただいていて…(中略)生産性向上を支援しています! 何かあればぜひお手伝いさせてください。
→自分の話しかしていない。相手が何をしているかを聞かない(興味がない)。
♪△△様や□□様(顧客名)などで使っていただいていて、時間短縮が実現できているんですよ!
→いやいや、大手チェーンの話をされても、ウチとは事情が違うし……
→いやいや、ウチはむしろそこに時間をかけて精度を高めたいんだけど。
相手が「課題」と考えていること、成し遂げたい成果=「穴」を想像・理解することなく、一方的に自身のアピールをされる方が時折いらっしゃいます。
「上から目線の改革論者」
テクノロジーに詳しい方の中には「外食産業はデジタル導入が遅れている」という認識の方も多いかもしれない。一般論的に考えれば確かに遅れているかもしれません。

飲食店には「人の創造力・対応力」「アナログゆえの味・雰囲気」といった価値が多く存在します。
例えばスマホオーダーで“合理化”すれば、ホールスタッフを減員でき、業務負荷が軽減でき、客の注文機会損失防止につながる……サイエンス脳、エンジニア脳で考えれば確かに効率が向上します。
しかし CX(顧客体験価値)=メニュー説明やおすすめの提案、メニューブック・お品書きを見て選ぶライブ感・雰囲気。…などが棄損する可能性がある。
EX(従業員体験価値)で考えれば、創意工夫した接客の楽しさ、やりがい、顧客からの「ありがとう」という価値は大切です。
時折、「○○の業務は人でやるよりデジタルでやったほうが速い、安い、効率的」と一辺倒におっしゃる方がいらっしゃいます。
サイエンス脳、エンジニア脳で考えれば♪非効率だなぁ…と見えるやり方も、それが同時にヒューマンでアートな価値を生み出しているかもしれないことを理解せねばならなりません。
外食 DX のベンダー・メーカーはテクノロジーの専門家。
飲食店はサービス・ホスピタリティの専門家 …であります。
外食産業が「デジタルが進んでいない」「デジタルに詳しくない」ことに対してサイエンス脳で優勢的に見るのではなく、サービス・ホスピタリティの専門家である飲食店への理解とリスペクトを持つことが、外食産業の進化を建設的に進めることに繋がると考えます。

竹田クニ
株式会社ケイノーツ
代表取締役
早稲田大学商学部卒業後、1988年株式会社リクルート入社。HR事業、旅行情報事業の営業部長、じゃらんリサーチセンターで地域活性事業のプロデューサー、経営企画部中長期戦略室などを経て2011年に飲食情報事業のシンクタンクHPGリサーチセンター(現・外食総研)の初代センター長に就任。計29年在籍の後、2016年に独立し(株)ケイノーツ設立。現在は外食マーケティングのスペシャリストとしてマーケティング、消費者の価値観変化、生産性向上などをテーマに記事執筆、講演活動、フードビジネス関連企業のアドバイザリー・顧問、食のビジネスマッチングなど活動中。










































