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2024.07.17

【竹田クニ】あなたの店は大丈夫?デジタル化による「顧客視点」の危機 

竹田クニのインサイト

デジタル化は人の労働の「代替」ではなく、人の労働価値を「補完」「拡張」すべきものであり、省力化を進めるだけでなく、目指すべきはデジタル+人による顧客価値向上である……という論が盛んに提供されています。しかしながら、飲食店の現場を色々と見ていると、デジタルが「代替」に留まる、あるいはデジタル化によって顧客視点の欠如が露呈してしまうケースも散見されます。今回は実例と共に「顧客視点の危機」について考えてみたいと思います。

「機能」を向上させると、「説明力」が下がる……というジレンマ

すっかり定着した感のある「モバイルオーダー」。店側にとっては、オーダーテイクにかかる業務の削減、ホールスタッフ数の削減、ヒューマンエラーによるミス低減など、合理化・効率化において非常に高い効果があります。また、SNSアプリで稼働するオーダーシステムの場合、獲得した顧客アカウントへの販促や、再来店客数、傾向分析など、より戦略的な活用も可能になってくるというメリットもあります。しかしながら、メリットばかりではなく、商品の説明力不足やスタッフの意識の低下など、合理化や効率化、店側のメリットとは異なる問題……「顧客視点」での問題が出るケースも少なくないようです。

オーダーシステムによって説明力と体験価値が低下?(ある大手チェーンのケース)

ある全国規模のチェーン店では、タブレットによるテーブルトップオーダーシステムを導入していますが、いくつかの課題を感じました。

メニューの内容がわからない(メニュー名「スペイン風トマト煮込み」)

鶏肉をトマト味で煮込んだスペイン料理風のメニューとのことだが、オーダーシステム上ではメニュー名だけで説明がないことから、以下のような疑問・不安が生じます。

  • 肉が入っているのか?

  • 入っているとしたら何の肉?

  • 写真は“赤い”けど、辛いのか?

同店はファミリーレストラン業態であるため、客層は幅広く、子供連れのファミリーも多い。「顧客視点」で考えれば、商品説明が足りていないと言わざるを得ません。※併設の「紙のメニューブック」には説明書きがありますが、タブレットと紙メニューを両方見ないと商品の理解して注文に至らない点は要改善でしょう。

ハンバーグランチのオーダーで何回も画面遷移

同店のオーダーシステムの場合、例えば「ハンバーグステーキランチ」を頼んだとします。

ライスかパンか? → ソースは? → トッピングは? → ご一緒にサイドメニューはいかがですか? → サラダはいかがですか? → ドリンクバーは?

最終的な注文確定画面にたどり着くまでに少なくとも「5画面以上」の遷移を要します。

筆者はソースやトッピングなど、個人が自由に組み合わせられる「パーソナライズ」は顧客体験価値向上に有効と考えていますが、それをタッチパネル上で実現させるための使いやすいUI(ユーザーインターフェース)の開発が急務と思われます。

店舗側の「アップセル効果」もUX全体への配慮を

追加トッピングやサイドメニューのご案内も、“店全体としては”アップセル効果があるのかもしれません。しかしながら、画面遷移が多すぎることは同時にUX(利用者体験価値)が低下する懸念もあり、「見えざる不満」に対する想像力が必要でしょう。

専門用語に注意

目玉焼きの焼き方
サニーサイドアップ、ターンオーバー、ベースドエッグ……飲食人にとっては理解できる焼き方の呼び名も、一般の消費者にとってはどうでしょうか?

メニュー名は店の業態・デザイン・雰囲気とともに大切な要素であるため、英語での呼び方は活かしつつ、説明書きを添えるといった配慮が求められるのではないでしょうか?

カトラリー
同店ではオーダー用のタブレットに以下の但し書きが手作りで貼り付けられています。 “備え付けのカトラリー以外をご要望の場合はスタッフにお申し付けください”

カトラリーという用語は、一般消費者のどれだけの人が理解できるのでしょうか?特にティーンエイジャーやシニアなど、わからない人が多いのではないか?

ここで取り上げた事例は確かに「細かい事」ではありますが、“神は細部に宿る”……顧客視点で店舗全体のサービスのあり方を、細やかな点において行き届かせることは重要なはずです。

焼肉店で消費者が「知りたい事」は?

焼肉はもはや「国民食」。海外では「日式焼肉」という呼び方もされています。「顧客視点」で考えると、焼肉店にも意外な「盲点」的な見直しポイントがあると考えられます。

「一人前」ってどの位の量なの?

  • ハラミ 980円

  • カルビ 1150円

  • 上カルビ 1380円

  • ロース 1270円

こういう表記の仕方は多くの焼肉屋で見られる普通の書き方です。ところが、消費者としては「これって何g?何枚なの?」って実はわからないことが多く、大変気になります。

焼肉はメニュー単品のみのオーダーは少なく、また追加注文も多い。「もう少しだけ追加しようか?」なんていう時には特に気になります。また、5~6名グループの場合、「4切れ」だと足りないから2人前にした方が良いかな?……という場面など、ポーションに関する情報は必要でしょう。

「人」による対応をデジタルに置き換えるには……

「人」によるオーダーテイクであれば、多くの店がこうした対応をしているはずです。「上カルビは4切れになりますので、皆さんがお召し上がりになるなら2人前でいかがでしょうか?」 「通常4切れなのですが、6切れでお持ちしましょうか?」

もし、こうした「融通が利く」対応を含めてオーダーシステムが担うのだとすれば、以下のような表記&機能をオーダーシステム上で実現できるようにすることが望ましいです。

  • ポーション(グラム数、枚数)の表記

  • ハーフサイズまたは枚数指定ができる

“お客様とのコミュニケーション機会”を担保できるシステム導入を

オーダーテイク時の商品説明やおすすめをお客様とのコミュニケーション機会と考え、オーダーシステム導入によってその機会が無くなることを懸念し、導入を躊躇する経営者は多いと思います。

大切なのは、オーダーテイクを「人」がやるのか、「オーダーシステム」に置き換えるか?という「人orテクノロジー」の議論ではなく、オーダーシステム導入によって肉体労働・労働集約的業務としてのオーダーテイク業務が省力化される一方で、商品説明やおすすめ、お客様ごとの対応といったお客様の「体験価値」に直結する業務=「頭脳労働」「感情労働」を、どう「テクノロジー」と「人」が役割分担をするのか?という業務革新を進めていくことが必要になるわけです。

本コラムでも以前お話しした「業務のアンバンドル化」と「リバンドル」という考え方は、細かく業務を分解し、「人 With テクノロジー」でどう実現してゆくかというアプローチであり、非常に有効です。

デジタル化は「顧客視点」を再考する絶好の機会

どのお店にも、それまでのやり方・習慣があり、それに慣れたスタッフがいることかと思います。デジタルツール導入を検討するにあたり、どの機器の機能が良いか?ウチに合っているか?価格は?はもちろん重要な要素です。しかし、さらにもう一段「課題のはしご」を上がっていただき、「顧客視点」で考えた時に……

  • お客様はどんな情報が必要なのか?

  • どんな情報がお客様にウチの良さを伝えられるのか?

  • お客様が便利だと感じるのは何で、逆にどんなことに不便さを感じるか?

  • お客様にウチの良さや便利さを感じてもらうために必要・重要な「機能」は何か?

そして……

  • これまでのやり方でウチの店は、本当にそれらを伝えられていたのか?

まず、これらを経営者、導入決裁者、現場スタッフが改めて議論することが、デジタル活用が単なる合理化に終わるか?業務革新=DX(デジタルトランスフォーメーション)となるか?につながります。

竹田クニ

株式会社ケイノーツ

代表取締役

早稲田大学商学部卒業後、1988年株式会社リクルート入社。HR事業、旅行情報事業の営業部長、じゃらんリサーチセンターで地域活性事業のプロデューサー、経営企画部中長期戦略室などを経て2011年に飲食情報事業のシンクタンクHPGリサーチセンター(現・外食総研)の初代センター長に就任。計29年在籍の後、2016年に独立し(株)ケイノーツ設立。現在は外食マーケティングのスペシャリストとしてマーケティング、消費者の価値観変化、生産性向上などをテーマに記事執筆、講演活動、フードビジネス関連企業のアドバイザリー・顧問、食のビジネスマッチングなど活動中。

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