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2024.05.13

「外食営業の星・益子雄児」はいかにして「知識と愛」を培ってきたのか、その足跡をまとめてみた

飲食DXリーダーズ

「マシマシ塾」というものが昨年2回オンラインで開催された。主宰者は益子雄児氏(49歳)、現在株式会社diniiで執行役員営業統括を務める人物だ。

「マシマシ塾」の内容は1回50分間で24本の講義となっている。受講者の対象は外食の営業及びカスタマーサービスを始めとした外食の人材で「外食に本当に役に立つ営業パーソンになろう」ということがテーマとなっている。これに沿って、益子氏が「外食営業の心得」に始まり「リード獲得」「商談準備」「商談」「後追い」「クロージング」という一連の流れを語る。そこに随時、外食経営の数字の読み方やコントロールの仕方といった実務に沿った内容を加えて、外食営業のスキルアップのノウハウとして説いている。総時間数は20時間、内容は濃密である。

「マシマシ塾」は外食営業の第一人者である益子氏がこれまで二十数年間の外食営業人生から培ったノウハウを元につくられたもので、講師をする立場となってから約1000人以上が益子氏の講義を受講している。「マシマシ塾」はこれらの内容をブラッシュアップしてまとめ上げたものだ。この受講生は300人に及んだ。

益子氏がこれまで蓄えてきた外食営業に必要な知識と、それを雄弁に語り続ける「外食愛」はどのようにして育んできたのであろうか。そして益子氏は「外食営業のあるべき姿」をどのように描いているのだろうか。

「営業&情報処理」の仕事に就く

まず、益子氏の社会人としてのはじまりと、外食と出合ったきっかけについて紹介しよう。

益子氏は大学卒業後、1998年4月ヤマトシステム開発株式会社に入社する。同社はヤマト運輸を擁するヤマトホールディングスの事業子会社で、コンピュータ利用システムに関わる業務を行っている。当時は「情報処理ソフトウエア業」と呼ばれていた。

ヤマトシステム開発株式会社
https://www.nekonet.co.jp/

益子氏は高校生から大学生時代を通じで靴の販売店でアルバイトをしていた。お客への提案が楽しくて、なかなかの優秀なセールスマンとなっていた。そしてヤマト運輸をつくり上げた小倉昌男氏のベンチャーマインドに心酔し、ヤマトシステム開発が切り拓く世界観に憧れるようになった。「靴の販売店で楽しさを覚えた『営業』と、未来の仕事『情報処理』が重なった」と益子氏は語る。

益子氏が入社してから、担当した業務は次のようになっている。

まず、ファクスサービスの法人営業。グループウエアが弱かった当時に、多事業所を抱えている本部が情報を各事業者に一斉配信するシステムである。その後、ネットワーク営業部へ。インターネットの波が訪れ、新規事業であるホームページをつくる業務を担当した。

このとき、アパレルのPOSを担当していた会社から「外食業界に進出したいので一緒にやりませんか?」とアライアンスの相談があった。この事業を益子氏が所属するチームが担当することになった。

当時のPOSは、店舗がその日をクローズしてからデータを本部に送るという仕組みで、本部は店舗の売上をリアルタイムで見ることができなかった。しかしながら、アライアンスの相談をしてきた会社が行っていたPOSは、当時としては珍しいインターネット回線を使ったもので店舗の売上をリアルタイムで見ることができた。

こうしてヤマトシステム開発で「飲食業界のリアルタイムのPOSをつくる」というプロジェクトが立ち上がった。

「サポーター会」を運営し出会いが広がる

このプロジェクトのことをリリースしたところ、すぐに「私の知見と、私が持っているシステムを活かさせてほしい」という申し出があった。それが、株式会社ナレッジ・ネットワークスの代表、中島浩二氏という人物。中島氏は飲食店向けPOSの会社で実績を積み、販売管理、勤怠管理、コミュニケーションツールといった分野に明るく、独立して飲食業向けのサービスを温めていた。

株式会社ナレッジ・ネットワークス

https://www.foodlearning.jp/

益子氏は、この中島氏の担当となった。20代半ばの青年・益子氏は「外食営業とは何か」ということについての薫陶を受けた。外食経営者と向き合う際の心構え、言葉遣いといった一挙手一投足である。中島氏は自ら構築した飲食業向けのシステムを現場で実践できるようにと自ら飲食店を営んでいて、益子氏は毎週土曜日にその店で働いた。こうして現場の感覚を身に着けていった。

このプロジェクトはヤマトシステム開発、POS会社、中島氏のアライアンスで進んでいくが、このプロダクトをさらに強くしていこうと考え、飲食業界を盛り上げるための「サポーター会」が必要だと考えた。そこで、飲食関連の取引先を組織化して「飲食企業支援フォーラム」を立ち上げた。益子氏はここで事務局を担当。このポジションがきっかけとなり飲食業との関わりが一層深いものになっていった。

この「サポーター会」では、飲食業界の商談の場をつくるためにセミナーの開催を企画した。その第1回は、「つぼ八」創業者の石井誠二氏と「てっぺん」代表の大嶋啓介氏との対談であった。石井氏は大衆居酒屋をチェーン化した人物であり、大嶋氏は“本気の朝礼”で注目を浴びていて「居酒屋甲子園」の開催を準備していた。新旧大物のキャスティングである。

「居酒屋甲子園」に心酔していく

この対談は大盛況となった。益子氏は特に大嶋氏の飲食業界に対する熱いメッセージに感動した。そして、居酒屋甲子園のサポーターとなった。上司には「飲食業界は人間力の可能性が膨大にある世界」であると説いて賛同を求めた。

NPO法人居酒屋甲子園

https://izako.org/

「居酒屋甲子園」の第1回は2006年2月9日東京・日比谷公会堂で開催された。登壇するチームの発表はみな“熱い”。中でも赤塚元気氏が率いる「どらえもん」の「30人の朝礼」には度肝を抜かれた。

「なんだこれは! と。それまで自分はイケてる奴だと思い込んでいたが、同世代の人間でものすごいチームビルディングを行っている人間がいるぞ。自分は井の中の蛙だ。もっとすごい人間がたくさんいるんだぞ! と」

このような感情が、雷のように益子氏の中で駆け巡った

「居酒屋甲子園」の第2回は2007年3月13日に開催されることになった。会場は、日比谷公会堂から、パシフィコ横浜の国立大ホールで、収容人数は倍以上の5000人となる。

※居酒屋甲子園WEBサイトより

益子氏は「飲食企業支援フォーラム」の事務局を務めていたことから、居酒屋甲子園の主催者から、この運営を支えるためのサポーターをいかに集めて組織化するかということにアドバイスを求められた。

益子氏は「それは、こうすれはいいんじゃないですか」と提案すると、主催者は「なるほど、益子ちゃんすごいね。じゃ、益子ちゃんに全部任せた!」と。巻き込まれたような流れであったが、益子氏自身も居酒屋甲子園に心底のめり込んでいった。

こうして第2回大会では事務局を担当、3回目には事務局をやりつつ司会も担当した。

「今回の商談のゴールは何ですか?」

居酒屋甲子園のサポーターの中に株式会社ROI(現・ファンくる)創業者の恵島良太郎氏がいた。益子氏にとって、ROIと出会ったことが「外食営業マン」となっていく第3のフェーズである。

恵島氏は当時飛ぶ鳥を落とす勢いにあった株式会社ベンチャー・リンク(以下、VL)から独立して2004年8月にROIを設立、ミステリーショッパー(=覆面調査)の「ファンくる」を立ち上げて邁進していた。益子氏は恵島氏から折に触れてこのスキームを伺って、「飲食店にとってメリットしかない、まさに三方良しのビジネスモデルだ」と確信するようになった。

こうして、益子氏は社員数千人の会社から、ベンチャーのスタートアップに転職することを決意する。2008年10月にROIに入社した。

株式会社ROI(現 株式会社ファンくる)

https://www.fancrew.co.jp/

このころ、恵島氏の古巣であるVLの人材がROIに大勢入社してくるようになった。社員10人の会社は20人となった。VLの人材は営業マンとして自らを鍛えぬいている。その文化がそのままROIの文化となっていった。そこで同時期に入社して出会ったのが、関敏氏(現GATEWING代表取締役)である。

そのようなROIにあって、益子氏は恵島氏や関氏から「外食営業の基本」そして「営業マネジメント」を徹底的に教え込まれた。

その入口は「レビュー」というもの。これは商談にのぞむ営業マンに対して、直属の上司が、商談の設計の状態を細かく確認するというもの。商談のために何を準備するのか、その日のゴールは何か、ということを押し問答の形で浮き彫りにしていく。

益子氏が「最初のレビューで衝撃を受けた」と語るのは、このような内容だった。

  • 「益子さん、今回の商談のゴールは何ですか?」と上司が質問。

  • 「それは受注を獲得することではないですか」と益子氏は答えた。

すると上司は、このように質問を重ねた。

  • 「益子さん、そんな備え方で受注が取れると思っているの?次の商談の60分間で、受注獲得に向かってどれだけの進捗があるの?」

これに対して、何も答えることが出来なかった。

そして益子氏は、この最初の「レビュー」に沿って、商談の前日、9時間を掛けてその準備を行った。

準備に時間を掛けると「振り返り」ができる

益子氏は、こう語る。

「10店舗の経営者に、商談前の準備を何もしないで会うとします。そこで営業担当が『御社の10店舗の店はどんな店ですか』と、こんなことを言っていたら全然ダメですね。調べてからやってこい、と。お前は、うちの会社のことを何も考えていないだろ、と」

「商談の準備は嘘をつきません。準備に時間をかけた分『振り返り』をすることが出来るから。商談がうまくいかなかったときに『なぜ、うまくいかなかったか』ということは、準備をしていないと分からない」

「レビューの大切さに気付く前まで、私は行き当たりばったりで営業をしていました。『ああいえば、こういう』という感じで。自分はこれまで怠けていたのだということに気付かされました」

そして、益子氏はマネージャーとなり「レビュー」をする側となった。自分は部下に対して誰よりも厳しい営業レベルを成立させることに自信があった。その内容は厳しいものであっても、営業マンは実績を上げて成長していった。

あるとき益子氏は営業担当からこのように尋ねられた。

「益子さんの、厳しくもありクオリティの高いレビューを社員全員で共有したい。そこで営業合宿のときに話してもらえないか」と。

益子氏は快諾をしたものの持ち時間は30分間。そこで営業合宿では益子氏が培った営業メソッドの概略を語り、その後営業マンを集めて、それを体系的に語るようになった。これが「マシマシ塾」の原型となった。

※「マシマシ塾」の講義の一部

このような活動を社内で行っていることをSNSで発信している過程で、多くの知人から「うちの会社でもやってほしい」と依頼されるようになった。こうして「最強の営業研修」という名前で外食営業のメソッドを伝えるプログラムをつくり、外部向けのセミナーも行うようになった。

その後、益子氏はROIの代表取締役社長を務めるが、2021年6月に同社を退任。同年7月、山田真央氏が代表を務めるスタートアップ企業の株式会社diniiの執行役員営業担当に着任した。

外食営業の道は「義理と縁」で形成されている

益子氏は、これまで「外食営業」に目覚めて、スキルを磨いてきた経緯についてこのように語る。

「まず、外食営業に対する心得は、ヤマトシステム開発当時に中島氏と出会ったことで形成されました。飲食業はとても尊い業界であり、みなさんと一緒にご支援をしていきたいというマインドは『居酒屋甲子園』を通じて形成されました。このマインドを背負って、これだったら絶対に外食の役に立つと思ったのが『ファンくる』です。ファンくるでの恵島氏、関氏との出会いは本当に大きかった。そしていま、外食業界に革命を与えられる事業を行っているのが山田真央率いるdiiniだと確信しています」

5/29にリアル版マシマシ塾が開催される。https://fooddeploy.net/category/seminar/2024052901

では、なぜ研修講師が本業でない益子氏が他社の営業やカスタマーサクセスに対して「マシマシ塾」を開催しているのか、ずばり尋ねた。

「自分はたくさんの素敵な出会いと縁に恵まれて『いま』があると思っています。それは営業の楽しさを教えてくれた恩人だけでなく、外食業界に関わるお客様やパートナー企業のみなさんとのご縁が大きい。自分が教えていただいたように、特に若手の営業やカスタマーサクセスの皆さんに外食営業の楽しさをお伝えしているだけです。」

益子氏は自らの「外食営業の道」について「義理と縁で形成されてきた』と語る。

このような益子氏の確信が「マシマシ塾」のコンテンツに宿っているように感じられた。

千葉哲幸

フードサービスジャーナリスト/フードフォーラム代表

柴田書店『月刊食堂』編集長の後、ライバル誌の商業界『飲食店経営』編集長を務めるなど、フードサービス業界記者歴ほぼ40年。フードサービス業界の歴史を語り、最新の動向を探求する。2014年7月に独立。「Yahoo!ニュース エキスパート」をはじめ、さまざまな媒体で執筆、書籍プロデュースを行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年発行)

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