
2024.07.25
「JFRX」の推進者・須藤剛氏が語る、新しい企業文化づくりとコロナ禍を乗り切ることができた学び
国内飲食DXニュースこの『Food Deploy』で5月14日に公開した新井勇佑氏(株式会社カオカオカオCEO)へのインタビュー記事では、この5月に立ち上がった「JFRX」(代表/狩野高光)の狙いと展望について紹介した。「JFRX」は「Japan Food Business Research X-Formation」の略称で、「外食5G」を5年前に立ち上げ、それを源流とする「外食SX」を発展的に解消して新たに立ち上げたもので、「アカデミックとDXで食産業の未来を開拓する」ということを狙いとしている。
「外食SX」を発展的に解散して、5月より「RX」を設立し活動する狙いとは
https://fooddeploy.net/posts/digital-supply-reconstruction-food
「JFRX」の前身である「外食SX」が目指してきたことは「食の産業構造を行い、経済的立場から変化させること」であった。そこで、社会課題を解決することが自社の経済的価値につながる「CSV」(Creating Shared Value)を学び、参加企業がこれらを推進した。
「外食SX」「レストランテック協会」「TOMONI会」の三団体で結成
「外食SX」での学びの過程で出てきたことは以下の3本であった。
他産業と協業できるビジネスマンを育成すること
飲食業における「デジタル/フードサプライチェーン」を構築すること
仕入れ、採用におけるインフラ、また新たなサプライチェーンを構築すること
そこで、「外食SX」「レストランテック協会」「TOMONI会」の3団体がパートナーシップを結んで「JFRX」を設立。それぞれの団体が持つユニークな強みとリソースを結集することで、業界全体の課題に対する新たな解決策を模索し、提供することを目指すことになった。

「JFRX」の活動には2つのセクションが存在する。
一つは、「アカデミー」。
これは飲食店に必要なビジネススキルを身に着けることを目的として、優良企業経営者の講演と、専門化によるビジネスプログラムが用意されている。5月28日に第1回が開催されて、以後月1回のペースで開催、最終3月25日までの講演者等が決定している。
もう一つは「デジタル/フードサプライチェーン」。
ここでは「食産業の進化に向けた企業間協業とデジタル化の推進」を旗印としている。5月14日の記事では、前出・新井氏がこの内容を解説してくれた。
新井氏は、「デジタル/フードサプライチェーン」セクションの理事長を務める。ここにはレストランテック協会代表理事の山澤修平氏が顧問、株式会社スマイルリンクル代表取締役社長の須藤剛氏が理事として活動をしている。
「社会課題を解決するためにボランタリーチェーン必要だ」
今回は、須藤氏が語ってくれた「JFRX」における「デジタル/フードサプライチェーン」セクションの展望について、そしてこれまでの「外食5G」「外食SX」での学びが、自社の事業にどのように結びついてきたのかを紹介しよう。
須藤氏は、まず「外食SX」での学びと、それがいかにして「JFRX」の立ち上げにつながったのか、このように語る。
「外食SXにはパートナー企業様が存在します。この方たちにとっては『自社に役立つこと』が絶対に必要だと考えるようになりました。そこで、社会課題について1社で取り組むよりも、仮に30社60店舗で取り組んだ方が有効なデータを取ることができます。それを体現するためにはボランタリーチェーンをつくることが必要ではないかと考えるようになりました」
「野菜の購入を、例えば10店舗の規模で購入している場合と、1000店舗の規模で購入している場合では、値段が全然違ってきます。1000店舗が集まれば農家さんを救うことが出来ます。いまの時代は、1人の経営者が100店舗200店舗を展開することが難しくなってきています。そこで同じような理念を掲げているところがまとまって、プロジェクトを興そうと考えました」
これらの発想には、まさしく「食産業の進化に向けた企業間協業とデジタル化の推進」が存在している。
須藤氏は「デジタル/フードサプライチェーン」セクションを推進する上で、デジタルとサプライチェーンをつなげてプロジェクトの組み立てを図っていこうとしている。「今期一年間にじっくりとアイデアを探っていく」と語り、この壮大な計画に取り組んでいる。
社長も、幹部も、店長も、みな「役割」という認識
須藤氏の会社、スマイルリンクルは今期で31期を迎える。須藤氏は同社の26期目、2020年4月に創業者の森口康志氏から代表を引き継いだ。須藤氏は、経営幹部当時から経営者としての手腕を磨き、森口氏より同社の次世代を担うことが期待されていた。
「JFRX」の原点となる「外食5G」は2019年3月に立ち上がるが、須藤氏はその立ち上げメンバーとしてこの活動を推進していくと共に、そこでの学びを自社の活動に落とし込んでいった。それによって、まず企業文化が転換した。須藤氏はこう語る。
「かつては、社長がピラミッドの頂点にいて、次に幹部がいて、店長がいて、という形でしたが、それがシームレスになりました。社長も、幹部も、店長も、みな『役割』という認識です。これによってボトムアップ出来る組織に変化していきました。かつての店長は『やらされ感』がありましたが、いまは企業理念に則って店長がつくりたい店をつくっています」
そんな中にコロナ禍がやってきた。コロナ禍は飲食業のそれぞれにたくさんの難題を突き付けた。須藤氏は、コロナ禍をまずこのように振り返る。
「『神田』という街はコロナ禍で一度死にました。神田はオフィス街でたくさんの勤め人がいてこの街で飲食をしてくださいましたが、それがリモートによって肌感覚で8割5分程度の人がいなくなりました。自分たちは、神田を離れてどこか別の街で飲食業をやろうか、というフェーズにも入りました」
しかし、ここから「外食5G」(当時)での学びが活かされる。
「自分たちの強みは何か、と考えました。当社は30年近い歴史の中で30店舗ほど店をつくってはつぶれてきました。しかし『神田』に出店した店は1つもつぶれていません。ここで改めて自分たちは『神田が得意だ』ということを確信しました。では、これから神田でつぶれないビジネスをするためにどのようなことをすればいいか考えよう、と」
ビルを1棟借りして各フロアの「FLR」を分解する
このような状況下の2021年4月、JR神田駅南口から徒歩30秒のところに「11坪4階建て」の物件が現れた。須藤氏はこの物件を借りたいと思ったが、即座にその決断に踏み切ることが出来なかった。
しかしながら、ここで「FLRの分解」を考えた。つまり、F(原価)、L(人件費)、R(家賃)をひとくくりにするのではなく、これらを分解して、コストやモチベーションを再構築しようということだ。
そこで、この物件の4つのフロア構成を考えた。まず、1階、2階を店舗とする。業態については、既存の神田のマーケットに合わせると(例えば、大衆酒場)埋没してしまうと考え、「神田にないもので、お客がわざわざ神田にやってくる業態」を検討した。そこでひらめいたのは、以前ジンギスカン料理の店を営業していたこと。
「ラムはアンチの人もいるが、好きな人は遠方からでもやってくる」(須藤氏)ということで、スマイルリンクルが得意とする神田の街で、遠方からお客がやってくる「ラム肉酒場」を営むことに決定した。
店名を既存店の「酒場ゴロー」「酒場五郎」「チンチン ゴロー」とつながる「ラムゴロー」とすることで神田ドミナントでのブランディングを図った。「ゴロー」とは、創業者の森口氏が飲食業を立ち上げる前に勤務していた青山商事の創業者青山五郎氏に由来している。森口氏が商売の神様として殊の外リスペクトしている。

ラム肉をメニュー化するためには下処理の作業が多いことが分かった。そこで3階を下処理の施設にすることが決まった。この施設の活用についてはセントラルキッチン(CK)の構想へと広がっていった。ここで他の飲食店の一次加工を請け負うことで、ビル全体の家賃をまかなうレベルの売上をつくろうと考えた。
最後の4階について。同社ではこれまで神田に12坪程度の事務所を借りていた(家賃17万円)。そこで、この4階を事務所にして、ビルそのものの本社機能を強くした。この事務所では家賃20万円を支払うようにした。
こうして、10坪4階建ての物件は、1、2階が「ラム肉酒場 ラムゴロー」、3階がCK、4階が事務所という構成になった。4階の事務所が家賃を支払い、3階のCKで売上をつくるということで、1、2階の店舗では思い切った商売をすることが出来る。現状では、1、2階の家賃をJR神田駅から30秒という一等立地にある中で、坪2万円に設定している。
このビルのオーナーにはまとまった家賃を支払っているが、その前段階のスマイルリンクルという会社の中で、フロアごとの家賃の比重を分散することによって、それぞれのミッションが明確になった。こうして本社機能を整えた4階建て1棟のビルは、2021年9月より稼働している。
社員の働き方の多様性を活発にする環境づくり
3階のCKはスマイルリンクルの「働き方改革」にも位置付けられた。
同社は社員30人、アルバイト80人の体制。このビルの構想が進めていた当時創業27年の会社であることから、10年以上勤続の社員が4割を占めていた。また4割を若い女子社員が占める。8割がベテランと若い女子社員ということになる。ベテランにはCKで店舗とは異なる疲労感が少ない労働環境で働いてもらう。若い女子社員には店舗現場に配属して輝いて働いてもらう。さらにCKは女子社員が子育てをするようになった場合、日中働くことができる職場としても想定することが出来る。
また、今年4月に「ラムゴロー」の向かいにある「小籠包マニア」を、同店を経営していた株式会社マニアプロデュース(本社/東京都渋谷区、代表/天野裕人)から譲り受けて、マニアプロデュースの加盟店となって運営をしている。これによって、同社は神田の創業店舗「広島お好み焼きBig-Pig」に始まり、「酒場ゴロー」「酒場五郎」「チンチンゴロー」「ラムゴロー」「小籠包マニア」と、神田に特徴がはっきりとした直営6店舗を構えるようになった。

これらの中でも「広島お好み焼きBig-Pig」は、店内を広島球場に見立てた内装でカープファンが集まる店として有名になっている。時折、カープ選手のOBや現役選手、カープにゆかりのある著名人によるトークショーが開催されている。70坪弱で120席の規模で月商は1200万円を超えている。
直営6店舗で社員30人ということで社員比率は高いが「これによって、サービスのクオリティが安定し、ミッション・ビジョン・バリューがしっかりと浸透して、組織的に強い体質になっている」と須藤氏は自認している。
これらスマイルリンクルがコロナ禍を乗り切ることが出来たエピソードと、働く人がいきいきと輝く環境づくりの背景には「『外食5G』『外食SX』での学びがあってこそ」と須藤氏は語る。
須藤氏のこのような経営体験を踏まえて、須藤氏が「JFRX」で推進する「デジタル/フードサプライチェーン」セクションは、「食産業の進化に向けた企業間協業とデジタル化の推進」を、一層価値の高いものとして育んでいくことであろう。

千葉哲幸
フードサービスジャーナリスト/フードフォーラム代表
柴田書店『月刊食堂』編集長の後、ライバル誌の商業界『飲食店経営』編集長を務めるなど、フードサービス業界記者歴ほぼ40年。フードサービス業界の歴史を語り、最新の動向を探求する。2014年7月に独立。「Yahoo!ニュース エキスパート」をはじめ、さまざまな媒体で執筆、書籍プロデュースを行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年発行)













































