
2025.06.11
外食DXは1.0→2.0へ テクノロジーによる顧客体験・従業員体験価値の進化へ
竹田クニのインサイト近年のトレンドキーワードともなっている「DX」。
従来から言われている「IT 化」「デジタル化」と混同しやすく、“DX 化”といった誤った表現もまだまだ散見されます。
一方、広く産業界をみてみると、シンクタンク等のソリューション、イノベーションを推進する企業では DX 2.0、3.0 の概念定義が始まっています。
まだまだ遅れていると言われる外食産業の DX の現在地はどこにあり、今後どう進化発展していくのか? という視点で考察していきたいと思います。
産業界で定義される DX 2.0、3.0
産業界では DX 2.0、3.0 の定義づけが始まっている。
ここでは野村総研が WEB 上に公開している図表を引用する。

出典:株式会社野村総合研究所 WEB サイト
ここではデジタルによるインフラ変革、プロセス変革を「DX 1.0」と定義し、「DX 2.0」では“今までにないサービスの確立”と定義している。
外食 DX はどうか?
野村総研の定義を参考に、外食産業における DX を筆者が図表化を試みたのが下記。

※野村総研の資料を参考に、竹田クニが独自に作成
キャッシュレス、ネット予約、スマホオーダー、シフト管理……現在導入が進み浸透してきたデジタルツールは、現場の労働集約的業務を省力化・省人化・効率化に寄与し、またこれまで膨大な手間を要する、あるいは不可能だったデータの見える化を実現できたことは大きな進化であることは間違いない。
しかしながら、これらの「外食 DX 1.0」が価値向上による生産性向上につながっているかは、まだまだ限定的かもしれない。
「代替性」と「補完・拡張性」の視点
“限定的”と申し上げたのは、業態・規模によってデジタルが果たす役割の性質が異なるからだ。
顧客接点において利用者が早さ・手軽さを求め、店側では効率性を重視する業態──例えばファストフード、軽食では、これまで人が担ってきた業務をテクノロジーが「代替」することが生産性向上に寄与しやすい。
一方で、顧客接点において人による臨機応変な対応やホスピタリティが重視される業態では、業務の「代替」だけではなく、人のパフォーマンスを「補完」「拡張」することによって顧客満足・体験価値が向上し、店の収益がプラスに働くことが生産性向上につながる。

こうした理由により、デジタル導入が DX の本来的な意味=Digital Transformation=デジタル技術による業務革新となっているかは、飲食店の業態、経営スタイル、大切にしている顧客体験価値によって異なるのだ。
「代替」だけであれば「外食 DX 1.0」?
筆者が以前、「掃除ロボット」の営業担当者に話を伺った際に……
「♪生産性向上に繋がります!」と力強く元気な説明を受け、苦笑した経験がある。
「なぜ生産性が上がるの?」という私からの問いには明確な答えは無かった。
確かに店の清掃を機械が代替することでクレンリネスが向上し、従業員が清掃業務から解放されるという事実は、生産性向上に繋がると言えなくはないが、「価値向上による生産性向上」に対しては間接的な要因とも言え、距離感がある。
デジタルプロダクトが持つ「一次機能」が発揮され、省力化・省人化・効率化が実現されることは有効だが、それは「機能的価値」の提供であり、外食 DX を考えるこの場では「外食 DX 1.0」だと考える。
JFRX(旧・外食 SX、外食 5G)による飲食店の提供価値の定義
若手外食経営者による研究グループ「JFRX」
JFRX - Japan Food Business Research X-formation
「CSV 経営」の概念を中心に、飲食店の未来の姿、外食産業の構造改革を目指す意欲的な団体で、自店ならではの特徴ある商品とホスピタリティで高い顧客満足・体験価値を提供する飲食店経営者達が集まっている。
彼らが定義した「飲食店の提供価値」の図が下記である。

彼らが指向する飲食店のビジネスは、及第点の味と品質、ボリュームという「機能的価値」を満たすだけでなく、情緒的・体験的、さらには社会的・文化的な価値を提供し、同時にビジネスとしての経済性=ちゃんと儲かる、を実現することを目指している。
モノ→コト→イミとの相関
この考え方は、筆者が数年前より提唱している「モノ→コト→イミ消費」への進化と相関している。

「外食 DX 2.0」への進化のために
本コラムでは、「外食 2.0」に進化すべき!と言うのが、勿論一番の主張である。
テクノロジー活用の第二章としての外食 DX 2.0 は、テクノロジー活用によって「価値向上」「新たな価値創造」につながる業務プロセス変革や SCM、人的資本経営(HRM 変革)に繋がるテクノロジー導入と考える。
(※外食 3.0 ももちろん重要な視点であるが、個々の飲食店の取り組みとはまだ距離感があり、その道程の在り方についてはまた別の機会に論じたい)
「外食 DX 2.0」において大切なのは以下の 2 点だと考えます。
導入先の「現地」「現物」と「現実」へのコミット
デジタルプロダクトの一次機能だけでなく、導入店舗が目指す「理念」「理想」「目的」「課題」を深く理解し、ツールを“何を”“どのように”使って、どのような「結果」にコミットし伴走するか。
「現地」「現物」は文字通り現地現物に深く接すること。「現実」とは、関わる顧客・従業員が情緒的・感情的にどう感じるかを受容・理解すること。自らの専門領域以外との「連携と協働」
例として観光を挙げれば、立派な観光施設を作っても、交通機関や働く人のモチベーションが伴わなければ活性化しない。
「情緒的価値」「体験的価値」……新しい価値を創造・実現するには、メニュー作りの専門家、PR のプロ、仕入れの専門家など、自分の専門領域以外の学習とプレイヤーとの連携・協働が必要だ。
具体的には、一次生産者、フードテックのプレイヤー、卸・流通事業者など、飲食店を支える多様なプレイヤーと「新たなバリューチェーン」を創造する役割意識と行動が求められるだろう。
今や“百花繚乱”のレストランテック業界。
外食産業の進化の中で各ベンダーは……
「ツール屋さん」で居るのか、産業再興・構造改革というイノベーションの協働者、欠かせないプレイヤーになるかどうかは、デジタルの専門性、プロダクトのユニークネスだけでは足りない。
「外食 DX 2.0」の実現に向けて、外食ビジネス全体、さらには他業界や世界のビジネスでどんなイノベーションが起きているか? への興味関心、情報収集、知見の獲得はますます重要になってくる──そう考えております。

竹田クニ
株式会社ケイノーツ
代表取締役
早稲田大学商学部卒業後、1988年株式会社リクルート入社。HR事業、旅行情報事業の営業部長、じゃらんリサーチセンターで地域活性事業のプロデューサー、経営企画部中長期戦略室などを経て2011年に飲食情報事業のシンクタンクHPGリサーチセンター(現・外食総研)の初代センター長に就任。計29年在籍の後、2016年に独立し(株)ケイノーツ設立。現在は外食マーケティングのスペシャリストとしてマーケティング、消費者の価値観変化、生産性向上などをテーマに記事執筆、講演活動、フードビジネス関連企業のアドバイザリー・顧問、食のビジネスマッチングなど活動中。










































