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2024.11.08

ITが陥りやすい「目的」と「戦略」「戦術」の齟齬

竹田クニのインサイト

デジタル化は「手段」であることは、多くの方ご存じと思いますが、ベンダーが飲食店に営業する場面では、お客様=飲食店と営業担当者の間に「目的」と「戦略」「戦術」に齟齬が生じているのをよく耳にします。

齟齬=ズレは、商談の際は勿論、“商談になるか否か?“に大きく関わる問題です。

一次機能で差別化が難しい

外食業界のデジタル化はもはや百花繚乱のレッドオーシャンで、各社が提供する「一次機能」=省力化、時間短縮、一覧化…etc.
プロダクトが持つ一次機能は概ね同じで、「省力化が可能です!」と飲食店に説明してもそれだけでは「あぁ、知ってるよ」「他でも色々商品があるよね…」という反応でしかない。

経営者や店長が気になるのは、それが店の業務上の課題(人手が足りない、時間短縮したいetc.)を解決し、かつ店の魅力UP、顧客満足の維持向上、そして現場のスタッフの使いやすさ、仕事のしやすさに繋げられるかだ。

出展:㈱トレタが2019年に作成した飲食店向けASP、クラウドサービス提供事業者マップ

2024年現在、さらに多くのプレイヤーが参入している

「これまでのやり方何とかなっている店」ほど危険な経営環境・・・という皮肉

「♪デジタル化した方が良いとは思っているんだけど、とりあえず今は“何とかなっている”ので慎重に考えたい。」

こういう経営者もまだまだ少なくないが、「今困っていない」ことと、「将来の経営環境への準備が出来ている」ことは全く別の話。
「今、困っていない」のであれば、それは「機能やコストの多少の問題<導入の手間」に経営者にとっては見える。

その場合はもっと上流の概念であるその店が目指す理念や経営「目的」に対する進化や、未来の経営環境の中でのサスティナビリティを啓発していくような営業活動が求められるだろう。

経営者にとっては「手段」、ベンダーにとっては「目的」?

下記は実際に飲食店が掲げている理念、パーパス、ミッションの例

  • 食とサービスを通じてお客様に「元気」を注入する

  • 地域で一番ありがとうと言ってもらえる企業

  • 人のチカラでお客様に最高のサービスを提供し、お客様の笑顔と街にエンターテインメントを提供する

優れた飲食店ほど、こうした理念やパーパスと現場で行われているサービスに一貫性があり、従業員にも活気があり、経営はサスティナブルなものに見える。
結論を言うと、ベンダーは、こうした理念・パーパスという「目的」に対する協働者・パートナーであることが望ましい・

「目的」と「戦略」「戦術」の関係 

ここでこれらの概念の復習をしたい

「目的」・・・文字通り経営の目的、企業の存在意義、地域社会での役割など
「戦略」・・・目的を達成するために「何をやるか?」
「戦術」・・・戦略を「どうやって、何を使って」推進するか?

これが一般的な解釈だ。

この考え方で言えばデジタルツール=戦術行う「手段」であり、運用によって「戦略」が成し遂げられ、それが企業・店の「目的」の達成に寄与するか?ということになる。

外食企業・店の「目的」「戦略」への“理解者”になれているかどうか。

冒頭に申し上げたお客様(飲食店)とベンダーの営業との間の齟齬は、ベンダーが「売ること」が目的化してしまい、企業・店の「目的」「戦略」の理解が足りない時に生ずる。
勿論、デジタルツール導入時には、機能・性能、コストは重要だ。
しかしながらもっと重要なのは、導入によって「戦略」をどう推進出来て、「目的」に対して寄与できるかどうか。

昨今、外食DXも“2.0”といったフェーズを迎え、デジタルデザインマップ全体での最適化が求められてきている中、自社プロダクトのアピールだけではなく、お客様の「目的」「戦略」「戦術」の全体でどう効果を発揮できるかの視点がますます大切になってきています。

レストランテック協会が提供しているDDM=デジタル・デザイン・マップ

「顧客理解が大切」「ヒアリングが重要」・・・もちろん大切であり、営業指南書にこれらが書いていないことは皆無。
外食企業・店の「理念」「目的」、「戦略」について、また、業態の特徴や地域での評判、店に行ってみての感想・・・
そして、その店の現場にとっての業務負荷、使い勝手を理解したたうえで、豊富な「ベストプラクティス」の引き出しをもった営業が求められているはずだ。

IT脳の盲点

例えばこんな話があります。

 ITが得意な人(例えばエンジニア)にしてみれば、
♪そのデータなら、○○を▲▲して□□すれば(簡単に)見られます!

ところが外食産業の場合は

  • 片手がふさがっている人がスグ見られるか?

  • あまり詳しくない人が操作できるか?

  • 忙しい時に操作できるか?

  • 簡単にデータが取り出せるか、連携できるか?

といったことが現場で致命的な機能差になってきます。
※勿論、オーダーシステム、経営管理システム、シフト管理…etc.種類によって異なりますが。

つまり、デジタルに強い人にとって何でもないことが、忙しい現場、時間が取れない現場、苦手な人が操作する・・・という現場特有の事情と使い勝手をよくよく考えなければ、当初企図していた機能は果たせないのであります。

非効率が効率を生む

“優秀なプロダクトを生み出し、営業リソースを極力抑えたセールス”・・・これは一つの理想として間違ってはいないと思いますが、外食産業の進化を促していくためには、それだけでは難しいと感じています。

開発にしても営業にしても、顧客を知り、現場の現実を知ることはエネルギー・工数がかかります。
しかしながらそこで得られた情報は、プロダクトを磨き、営業と顧客の距離を縮め、結果的にスムーズな提案と運用に繋がります。

ITリテラシーの高い人にとって“得体のしれない”かもしれない外食産業。

テックに精通する人々が思い描く「未来」にたどり着くためには、店や業界特有の事情に合わせ、また働く様々な人々のスキルや事情に合わせた“ヒューマンなプロダクトと運用プラン”を柔軟に考えていくことが、ベンダーには求められていると考えます。

竹田クニ

株式会社ケイノーツ

代表取締役

早稲田大学商学部卒業後、1988年株式会社リクルート入社。HR事業、旅行情報事業の営業部長、じゃらんリサーチセンターで地域活性事業のプロデューサー、経営企画部中長期戦略室などを経て2011年に飲食情報事業のシンクタンクHPGリサーチセンター(現・外食総研)の初代センター長に就任。計29年在籍の後、2016年に独立し(株)ケイノーツ設立。現在は外食マーケティングのスペシャリストとしてマーケティング、消費者の価値観変化、生産性向上などをテーマに記事執筆、講演活動、フードビジネス関連企業のアドバイザリー・顧問、食のビジネスマッチングなど活動中。

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