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2026.06.26

「健全な文句」と「悪い先輩」~KPI経営の「陰」「陽」とは?~

竹田クニのインサイト

「KPI経営」が外食業界にも浸透してきています。
売上利益の予実管理だけでなく、いわゆる「ダッシュボード」を設け、財務的指標だけでなく顧客満足度や従業員のエンゲージに至る総合的な指標を管理する経営は進化と言って良い。
しかしながらマネジメント観点で見ると、そこにはKPI経営の「陰と陽」もあるように思います。

頭脳労働の補完・拡張による進化

デジタルツールが進化・浸透したことで、これまで人によるデータの集計やレポーティング作業によって行われてきた「頭脳労働」は劇的に効率化されただけでなく、人では難しかった詳細な集計や分析が可能となり、「頭脳労働」は大きく補完・拡張されたと言って良い。

KPIの進化

頭脳労働の補完・拡張の結果、従来よりも劇的にデータの可視化・分析が可能になり、店舗において日商以外にも細やかにFLや客数、リピート率etc.様々な指標を、月次、週次、日時、時間ごと・・・にみることが可能になりました。
この進化自体は非常にポジティブなものであります。

ホスピタリティ産業としての飲食店進化は「感情労働」にあり

ホスピタリティ産業として、より重要となるのが「感情労働」。
肉体労働、頭脳労働が代替&補完・拡張されることで、人は時間と余力が生まれ、画一化された作業的業務ではなくお客様への気配り、コミュニケーション、臨機応変な対応といった「感情労働」に集中し、「顧客体験価値」を創り出します。
その重要性から、近年、KPIの指標の一つとしてES(従業員満足度)、EX(従業員体験価値)を採用する企業が増えてきました。

問われるのはインテグリティ

インテグリティ=真摯さ、誠実さ、本気度。
感情労働を担う「ヒト」が、真摯で、誠実で、本気であることがパフォーマンスのクオリティに当然影響が大きい。
従来からある従業員満足度調査は、待遇や職場風土に対する従業員一人一人の「評価」という性質が強く、また設問数の多さから日常的な測定は困難。
近年では、従業員の心の状態≒インテグリティにつがなる指標を得るために「エンゲージメント」を採用する企業が増えています。
インテグリティが高い状態であるかどうか?を可視化する取り組みとして、エンゲージメントの重要性はますます高まってくるでしょう。

ダッシュボード

(株)トリドールの「ハピカン・ダッシュボード」は、財務的指標、ES、CSが並列に配置され、こうした考え方の特徴的かつ進んだKPIの取り組みとして見ることができるでしょう。

戦略 | 経営理念 | 株式会社トリドールホールディングス

“悪い先輩“は居ないか?KPI経営の「陰」

店の経営状態を可視化する「ダッシュボード」は、言い方を変えれば「各種KPIの集まったもの」であります。
KPI経営はもちろん有効かつ素晴らしいマネジメントの考え方でありますが、時にKPIは“それ自体が目的化する”という症状を生むことがあります。

「陰」を生む「悪い先輩」とは?

「悪い先輩」とはどんな人でしょうか?それはKPIが目的化してしまうインテグリティの低い人。

悪い先輩の存在は、自発的、創造的な業務を生む風土を壊し、KPIが目的化した組織を生み出しかねません。
組織マネジメント的には、腐ったミカン的なこうした悪い先輩を、勇気をもって排除することも必要かもしれません。

「陽」 「健全な文句」が飛び交う活性化した組織

筆者の古巣である(株)リクルートは、創業期~拡大期において特徴的な心理学的経営があります。
自律的な「個」の採用にこだわり、「社員皆経営者主義」と呼ばれる当事者意識と目的意識の醸成、そして「ぐるぐる図」と呼ばれる、経営⇐⇒現場のコミュニケーション活性化…これらが業績への強いコミットメントと商品を磨き続ける・・・強い組織を生んだと考えられています。

ぐるぐる図

殆どの組織において、目標とする業績や、戦略・戦術、KPIは経営者・本部から“降りて”きます。このこと自体はあるべき姿。
一方、現場では様々な意見や出来事が起こります。

  • 必要なのはわかるけど、面倒くさい!手間がかかる!

  • お客さんから〇〇と言われた!

  • ライバルは〇〇をやっているのに、これじゃあ戦えない!

  • もっと〇〇した方が良いと思うんだけど…

良し悪しは別として、こういった意見や情報があるのが現場の常だが、こういった“声”が活発にあがる、自由闊達に現場と本部が言い合える環境が健全だという前提に立っている。

業績数字という結果評価だけではなく、KPIにこだわり、KPI達成のための「健全な文句」=改善取り組みが継続されるこうした「ぐるぐる図」モデルは、KPI経営の「陽」といえるでしょう。

安定・堅調な時ほど上がらない傾向?

一方、こうしたモデルにも課題はあります。
現在のやり方で、業績が安定・堅調に推移している時ほど、不平や不満は上がってこない傾向にある…これは何処の組織でもあり得ること。

業績が順調な時、KPIが安定して達成できている時だからこそ、競合の動向や、サイレント化している顧客の声をキャッチアップすることが、更なる業績、顧客満足度UPに繋がり、サスティナブルな事業成長に重要です。
健全な文句が多く上がっている時はむしろ良い状態で、少ない時は「ぐるぐる図」が回っていない?と考え、敢えて現場に出張って見に行く・・・こうした考え方と運用が肝要とも言えます。

「悪い先輩」と「健全な文句」の違い

違いは明確です。

  • 「悪い先輩」・・・目的・判断基準が、己の、苦楽、損得

  • 「健全な文句」・・・目的・判断基準が、顧客や経営に対する適否、正誤、仲間への配慮

「悪い先輩」が居る現場と「健全な文句」が生まれる現場の違いは、目的意識とインテグリティの違い。
KPIマネジメントを進化させると共に、理念、PMVへの共感とともにHRM(ヒューマンリソースマネジメント)進化させることによって、現場のインテグリティを高めることががますます重要になってくるのではないでしょうか。

今後ますます進むことが確実な人材不足。
人がイキイキと輝く職場は、人が継続して働きたいと思う=人が辞めにくい。そしてそういう職場は人が採用できる。
人がイキイキと輝く店を数多く創り出すことが、この業界を魅力的にしていくことに繋がります。

竹田クニ

株式会社ケイノーツ

代表取締役

早稲田大学商学部卒業後、1988年株式会社リクルート入社。HR事業、旅行情報事業の営業部長、じゃらんリサーチセンターで地域活性事業のプロデューサー、経営企画部中長期戦略室などを経て2011年に飲食情報事業のシンクタンクHPGリサーチセンター(現・外食総研)の初代センター長に就任。計29年在籍の後、2016年に独立し(株)ケイノーツ設立。現在は外食マーケティングのスペシャリストとしてマーケティング、消費者の価値観変化、生産性向上などをテーマに記事執筆、講演活動、フードビジネス関連企業のアドバイザリー・顧問、食のビジネスマッチングなど活動中。

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