
2025.05.14
【竹田クニ】リーンスタートアップorビッグピクチャー 最適なデジタル化に必要なアナログとの融合
竹田クニのインサイト「モバイルオーダーはありかなしか?」という議論があるようです。世論は業界を“ひとくくり”に論じてしまうことがあるようで、モバイルオーダーについても「0:100、all or nothing」で見がちな傾向があります。
外食産業は規模・業態・エリアによって多様すぎ、一つの業界として論じることが難しい。だからこそ、店による活用・運用の仕方の違い、省力化・省人化だけでない価値向上の取り組みについて提案・支援することは重要だと考えます。
モバイルオーダーの導入理由に変化
モバイルオーダーの普及には、コロナ禍が追い風となった背景があります。
コロナ禍〜直後までは導入理由は省力化・省人化とともに「非接触」でしたが、近年は飲食店現場の人手不足、将来的な労働人口減を背景に導入が伸び続け、ホットペッパーグルメ外食総研の調査によると、消費者の利用経験は2021年26.0%→2024年57.1%と倍増しています。
こうして市民権を得たモバイルオーダーですが、今年に入って飲食店側の導入効果に大きな変化が見られました。

出典:株式会社リクルート ホットペッパーグルメ外食総研
人手不足の解消・人件費削減は絶対値こそ高いものの前年比で減少し、逆に労働時間短縮・顧客満足向上・QSC向上のスコアが大きく上がっています。これは飲食店の導入効果実感、目的意識が大きく変わってきていることを示していると考えられます。
ハイプサイクルにみる普及の変化
下図はレストランテック協会が発表している「モバイルオーダーのハイプサイクル」。

ハイプ・サイクル(hype cycle)=特定の技術の成熟度・採用度・社会への適用度を示す図 …Wikipedia
モバイルオーダーは現在、啓発期にあると思われ、コロナ禍直後のピーク期を過ぎ、目的・効果についての議論・検証が進みながら進化している最中と言えるでしょう。
活用の概念整理とアナログ接客との融合
多様な外食産業において、デジタル活用の仕方は大きく2つに分かれると言われています。
ロイヤルホールディングス菊地会長が提唱する考え方で、飲食店におけるデジタル活用は…
「代替性」……人の労働を代替する
「補完・拡張性」……人の能力・パフォーマンスを補完・拡張する
に分かれ、下図のように業種業態によって活用方法が異なるというものです。

出典:株式会社リクルート ホットペッパーグルメ外食総研
モバイルオーダー導入で顧客満足度が下がるのは「もともと取り組みができていなかった店」
サービス“オタク”、接客コンサルとして活動中のレストランテック協会顧問・遠山啓之氏によると…
「モバイルオーダー導入で顧客満足度が下がるのは、もともと接客価値を発揮できていなかった店」
接客で何を大切にし、顧客のどんなインサイトや行動に注目し、スタッフは何をすべきか――類型化や意識教育、行動の型化が“できていなかった”店は、オーダーテイクという機会がなくなることで接客による顧客満足低下が起きる、との指摘です。確かにその通りだと思います。
表参道の「寿司&ワイン」で見つけた“小さな取り組み” →「デジタル」導入と同時に行われる「アナログ」
面白い取り組みを目撃しました
「オモテサンドリア」…エー・ピーカンパニーOBの綱島氏が経営する「寿司&ワイン」の店。
寿司とワイン オモテサンドリアのご予約 - 表参道/居酒屋 | 食べログ
売りは「和」である寿司・アテとワインのペアリング。スタッフがワインの産地やフレーバー、寿司・アテの特徴を丁寧に説明・リコメンドしています。オーダーは「スマホ」です。
見つけたのはこちら。

ワインの産地・香り・味の特徴が書かれた「札」が下がっています。
オーダーはスマホですが、同店の接客満足度は高く、口コミにも「接客が良い!」と多く書かれています。
筆者が注目したのは、アナログで、簡単で、わかりやすい取り組みという点。
わかり易くシンプルでライトなアナログの取り組みを、モバイルオーダー導入と同時に行っているという点が大変素晴らしく、デジタル前提の顧客満足度UPの取り組みとして優れていると感じました。
リーンスタートアップの重要性
リーンスタートアップ:新規事業や製品開発において、最小限のコストと時間で試作品(MVP=Minimum viable product)を開発し、顧客の反応を観察しながら、改善を繰り返していくことで、無駄なく製品を成長させていくマネジメント手法…google Ai
モバイルオーダーの導入・活用において、このリーンスタートアップの考え方が非常に有効と考えています。
―例えば、
ランチのみ、個室のみ、追加ドリンクのみ
―アナログの小さな取り組みとセット
前述のワインの「札」や、テーブルPOP試行、スタッフのおススメトークの「型化」など
こうした取り組みやすい小さな一歩=リーンスタートアップによって、まずは小さな成果を創り出し、修正していく。
デジタル導入と併せて、人手しかできないアナログ的なプラスアルファの取り組みを同時に実践し、顧客評価を見ながら改善・修正していく。
主役はやはり顧客なのだ。
接客価値・顧客コミュニケーション機会損失を懸念する店には“大きすぎる絵”は逆効果?
リーンスタートアップは「デジタルデザインマップ」にみるデジタルバックヤードの世界観とは距離があるように見えます。

しかし現場では、接客力低下やコミュニケーション機会の損失を懸念する経営者も少なくありません。こうした店舗に壮大なデジタル経営像を提示してもハードルが高く“大きすぎる絵”はイメージがしきれない。。まずはシンプルな「第一歩=リーンスタートアップ」を提案し、支援して徐々に進化のスピードと“絵のサイズ”をサイズアップしていただく――。
こうした活動も外食産業を進化させるうえで欠かせず、DX をサポートする側に求められる大切な視点・取り組みだと考えます。

竹田クニ
株式会社ケイノーツ
代表取締役
早稲田大学商学部卒業後、1988年株式会社リクルート入社。HR事業、旅行情報事業の営業部長、じゃらんリサーチセンターで地域活性事業のプロデューサー、経営企画部中長期戦略室などを経て2011年に飲食情報事業のシンクタンクHPGリサーチセンター(現・外食総研)の初代センター長に就任。計29年在籍の後、2016年に独立し(株)ケイノーツ設立。現在は外食マーケティングのスペシャリストとしてマーケティング、消費者の価値観変化、生産性向上などをテーマに記事執筆、講演活動、フードビジネス関連企業のアドバイザリー・顧問、食のビジネスマッチングなど活動中。










































