
2026.06.04
テクノロジーがもたらす【ディストピア】への警鐘。人間の思考とAIが共存する未来とは?
竹田クニのインサイトデジタルツールによって飲食店の各種業務は劇的に効率が上がりました。
肉体労働はテクノロジーが「代替」し、頭脳労働は代替だけでなく人では出来ない解析による課題究明が可能に。そして人は人でしかできない「感情労働」にテクノロジーのチカラを得て集中する・・・この理想に殆どの方は異論は無いと思われます。
ただ一方で、テクノロジーへの依存は“ディストピア”を招きかねない。今回のコラムでは人とテクノロジーの関係性について考えてみたい。
理想とする「骨格」
飲食店の業務を「肉体労働」「頭脳労働」「感情労働」で分けた時に、それぞれがテクノロジーによってどう進化するのか?の基本的な考え方が下図。
これからの飲食店はテクノロジーを上手く活用することによって、ホスピタリティ産業として進化していく基本の「骨格」ともいえる考え方です。(※ロイヤルホールディングス菊地会長による考え方に筆者が加筆・作図しました)

デジタル化がもたらすマイナス
ところが現実には、デジタル化が却ってホスピタリティ産業としての「後退」を招く可能性があり、実際に残念な事象も発生しています。

ちょっと極端な絵でありますが、デジタル化によってこれまでよりも効率的、省力化、省人化が出来た一方で、人が「お客様への関心」を失い、“ただ作業をする人”になってしまう。
実際に筆者が知る焼肉店では、「タブレットオーダーを導入後に、客単価が大幅に下がる」という事態が起きた。
人がおススメすることが無くなり皿数が、特に〆メニューの出数が明らかに落ちた。スタッフが「料理を運ぶ係」となり客席への目配りが無くなった・・・というのが原因でした。
ホスピタリティ産業の本質を問う
こうした事例は、飲食店とはお客様に何を提供するのか?という本質を問うもの。
顧客が望む「体験価値」の定義が甘く解像度が低いまま、業務の合理化・効率化を計ればホスピタリティビジネスとしての飲食店は退化する。
AIが全ての答えを出す世界は是か非か?
先日耳にしたあるテクノロジストが描く未来はこうだ。
ヒトは目指したいGOALを伝えれば最適なやり方をAIが示し、実行ボタンを押すだけ。
ヒトは本来人がやるべき、調理、接客業務に集中する

皆様の感想はいかに?
みなさんはどうお感じになられたでしょうか?
「AIがすべてを集約し、人では不可能or膨大な時間がかかる集計・分析を行い、最適な戦術打ち手を提案する」
・・・これ自体は正しそうですし、進化を感じますよね。
評価は二分。
共感派
「AIがすべてを集約し、人では不可能or膨大な時間がかかる集計・分析を行い、最適な戦術打ち手を提案する」
その結果、人はお客様、従業員に向き合い、コミュニケーションやケアに集中することが出来る・・・否定派
・人が“集中する”“向上させる”業務とは何かの解像度が低いor 無い
・もしこれが本当に進めば、人は考え無くなり、成長もしなくなる
・これはAIが考え、指示した通りに人間は動けばよい…という“ディストピア”である
みなさんはどう思われましたか?ちなみに私は・・・後者です。
全体/部分 合理/非合理のフレーム
飲食店の業務には、非合理的だがそれが価値を生んでいるものが存在します。
その業務そのものは「非合理的」なのだが、全体をみるとそれが価値を生んでいる=「合理的」というもの。
これには著名なフレームワークがあります。

飲食店でいうと…
A店・・・手書きメニューという「部分非合理」があるが、それが店の空気・雰囲気、ブランドにとって「合理」
B店・・・調理や接客が高度にデジタル化されて「部分合理」だが、それが競争優位の消滅、ブランド陳腐化という「全体非合理」を招く→上図の合理的な愚か者のケース
外部から見れば非合理的なことも、全体としてみると合理的で理にかなっている・・・こうしたことは外食産業に関わらず、様々なビジネスにおいて存在します。
エンジニア脳だけで見ると、飲食店の業務は「非合理」だらけです。
しかしながら非合理にはそれが行われてきた理由・意味があり、またそこに人の想いや情熱が込められていることが少なくありません。
「合理」のみによる選択・意思決定が、全体価値を奪ったり、従業員の想いを刈り取るものであってはならないのです。
それは“ディストピア”なのか?
ディストピアとは、ユートピア(理想郷)の対義語で、徹底した管理や統制によって自由が奪われた「暗黒世界」や「反理想郷」を指しますが、ここでいう“ディストピア”とはテクノロジーがすべてを管理し、テクノロジーの指示通りに人間が動き、人は何も判断せずにテクノロジーに従属してしまう世界。

またしても極端な絵ではありますが、創りたいのは、テクノロジーに従属する世界ではなく、人とテクノロジーが創造的に調和する世界。
必要なゆらぎ 時代の変化に“クレイジー“は必要
AIによって様々な業務が革新的に変わる、あるいは業務そのものがなくなる・・・時代の変化には常識や習慣にとらわれないクレイジーともいえる極論は必要と考えます。
極論があることによって議論が進み、本質的に大切なことの解像度が上がる。
イノベーションには「よそ者」「若者」「バカ者」が必要、とよく言われますが、テクノロジーサイドの極論と、外食産業内部の経験則、積み上げが良い意味でぶつかり合うことで、テクノロジーと人の思考・特性がハーモナイズする「未来」が見えてくるのかもしれません。

竹田クニ
株式会社ケイノーツ
代表取締役
早稲田大学商学部卒業後、1988年株式会社リクルート入社。HR事業、旅行情報事業の営業部長、じゃらんリサーチセンターで地域活性事業のプロデューサー、経営企画部中長期戦略室などを経て2011年に飲食情報事業のシンクタンクHPGリサーチセンター(現・外食総研)の初代センター長に就任。計29年在籍の後、2016年に独立し(株)ケイノーツ設立。現在は外食マーケティングのスペシャリストとしてマーケティング、消費者の価値観変化、生産性向上などをテーマに記事執筆、講演活動、フードビジネス関連企業のアドバイザリー・顧問、食のビジネスマッチングなど活動中。









