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2023.08.18

【酒井慎平】食の世界の「職人」とは何か。

酒井慎平の物申す!!

 こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。まだお盆の長期休みの方もいらっしゃるでしょう。このコラムを旅行先で読んでいる方もいるかもしれません。むしろ忙しく現場で働いている方もいるでしょう。

 先日、ある新聞社に弊社SATOKAの長期熟成生ハムについて取材を受けました。対応してもらった経済部の記者は、当然生ハムの製造方法や食べ方から全く分からないのでイチから質問に答えていったのですが、ふと記者から「従業員はみんな職人ですか?」という質問が飛んできて即座に返答することができず一瞬喉を詰まらせてしまいました。

「職人」とは何を指す言葉でしょうか。

辞書(デジタル大辞泉)にはこう載っています。

1 自分の技能によって物を作ったり、加工したりすることを職業とする人。大工・左官・表具師など。

2 (1から)特定の分野の技術者。技師・整備士など。

3 (比喩的に)確かな技術や優れた技能をもった人。その道の専門家。「バントの―といわれる野球選手」「この店の彼女はおいしいコーヒーをいれる―だ」

 相手は新聞記者ですから、最も広義である1の意味で質問したと思いますが、私のなかで一瞬の躊躇いが生じたのはなぜなのか考察していきます。

 食の業界では、世界的トレンドとしてアメリカ西海岸に根付くクラフトマンシップを重んじる文化が5年以上前から注目を集めるようになりました。「クラフトマンシップ」とは、直訳すると「職人の心」という意味になります。

 代表例として、カフェ産業でサードウェーブコーヒーというシングルオリジン(単一農場の豆)、浅煎り、ハンドドリップ、ダイレクトトレードといった特徴のお店が日本にも広まりました。「ブルーボトルコーヒー」なんかがその代表格です。

 また酒類業界の流れも同様で、世界的にウイスキー、ビール、ワインといった様々なジャンルでマイクロ化が進み、個性的でこだわりの強いお酒を製造し支持を集めています。

 日本でもクラフトビールやワインの小規模醸造所が増加した他、大手でもサントリーが2015年に生ビール「マスターズドリーム 醸造家の夢」を発売した他、キリンビールも同年にクラフトビール専門事業子会社であるスプリングバレーブルワリー株式会社を立ち上げ、店舗運営やタップマルシェを通した展開を行い、2021年5月には「SPRING VALLEY 豊潤<496>」を缶ビールで発売するなど規模を拡大しています。

 トレンドの一端であるドリンク業界を表面的に並べてみただけでも、主流となる大手メーカーのメイン製品だけでなく、こだわりが強い独創的なブランドが次々と生まれています。こうした流れにも「クラフトマンシップ」という考え方が大きく影響しています。

 レストラン業界についても同様です。世界一有名なレストランと称された「El Bulli(エルブジ)」は2011年7月に閉店しましたが、彼が残した分子ガストロノミーの考え方は世界中に伝播しています。

 ちなみに分子ガストロノミーは、分子料理法と誤訳されることも少なくないのですが、料理人は科学者ではないし、科学以上に技能や創造性、工芸技術、技巧、気質、技や伝統、その他のものによるところが大きいです。

 世界一のレストランとも称されるデンマーク「noma(ノーマ)」は、労働問題を理由に2024年末に閉店し、翌年から「広いテストキッチンと巨大なラボ(実験室)」として研究や開発が主体になり、より創造性の溢れる形態へと姿を変えます。地域の食材にこだわって創造性を発揮していただけに、これからの動向にも世界中から注目が集まっています。

 これまでは、古典的な料理の世界を重んじてきた世界に対して、「El Bulli」や「noma」は、他には真似できない創造性あふれる一皿を追求し評価されました。そして、彼らに影響を受けた料理人が次々と新たにお店を出しています。

 食の世界を見渡すと、時代の変化に伴い「職人」(クラフトマン)という意味が大きく変化してるような気がします。従来の広義的な意味である、単に技術や技能を持った人物というより、創造性、技巧、気質、技や伝統といった要素が加わったように思うのです。

 世界的な潮流が日本に影響を与えた側面もありますが、「noma」のレネ・レゼピが京都を訪れた際にシンパシーを感じたように、そもそも日本にはモノづくりにおいて歴史や風習を重んじる文化がありますし、ここ最近注目を集める飲食店には、こうした職人気質を感じされる店舗が多く見受けられます。最近は、飲食経営者も職人が多いですよね。

 ましてや、今は単に技術や技能を持ち合わせていても、単純作業はテクノロジーが代りを果たす時代です。というよりも、テクノロジーの発展が職人のレベルを引き上げているとも言えます。

 「日本の食産業は、他産業より職人レベルが高い」きっとそうでなくてはいけないし、既にそうだと信じています。食の世界で高い意識を持つ職人を生み出し続ければ、きっと何年後には辞書に載っている意味も変わっているでしょう。

酒井慎平

一般社団法人レストランテック協会

専務理事

20代で外食業界誌の編集長、外食産業記者会の代表幹事を務めた後に29歳で独立。長野県長野市で製造する長期熟成生ハム「掬月 Jamon KIKUZUKI」のブランドオーナー。外食業界に特化した広告代理業を軸に食の価値創造に取り組む。株式会社SATOKA 代表取締役。一般社団法人レストランテック協会 専務理事。NPO法人居酒屋甲子園 アドバイザー理事。一般社団法人これからの時代の飲食店マネジメント協会 プロコンサルタント。

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